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第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十三時間

 残り二十三時間


 地下迷宮は相変わらずの不気味さを保っていた。

 よく利用するサニエたちにも、地下道のルーツはわかっていない。

 遥か古代の時代より存在しているのは確かだが、いつの時代、どの文明によるものなのか、定かではない。かつてフォルケの科学者たちが研究をつづけていたが、志半ばで断念せざるを得なかった。無数に枝分かれしていて、ただ迷うだけなので、そこまで神経質に調べる必要はなかったからだ。

 サニエは記憶を頼りに地下迷宮を進んだ。王族の者でも、一度迷ってしまうと、そう簡単には抜け出せない大迷宮。そのためサニエはここへ入ると神経質になった。

 彼女の背後には二人の男と一人の女性が付き従った。

「実は私たちに協力してくれるのはノリエガとハートネットです」

 サニエは歩を止めず、首だけを回してローランドに向けてそう云った。

「そうか」

「でも何故、ノリエガたちと行動を別にしたのですか?」

「人生にはいろいろあるさ」

「あまり根掘り葉掘り聞くもんじゃないぞ、サニエ」

はっはっはと笑うゴーゴリ。他には誰も笑わないので、すぐにその笑い声はやんだ。

 それからは会話もなく、一同は右へ左へと迷宮内を進んだ。

 先が崩れていて袋小路になっている道が、いたるところに見られる。地図もなしにこの迷宮へ入り込むと当分の間出てこられないだろう、とローランドは思った。目印になるようなものはない。サニエの脳裏に地図でも叩き込まれているのだろうか、とローランドは感心した。

 しばらく行くと、広い空間に出た。

 天上も高く、光があまりとどかない梁は妖しい艶光を放っている。

 空間の中央に大きな木製のテーブルが横たわり、一番奥の椅子に一人の男が座していた。

「彼がわしら反乱軍のリーダー、グリニコさんじゃ」

 ゴーゴリに紹介された男はにこりと微笑んだ。

「グリニコさん。ノリエガとハートネットはどこへ?」

 サニエが彼の元へ寄って尋ねた。

 グリニコは優しいが重い宿命を背負ったような声で答えた。

「彼らは、それぞれの道を歩いているよ。だが心配はいらない。彼らはかならず帰ってくる。そういう男たちだ。そこにいる若者が、それを一番よく知っているはずだが」

 ローランドは無言のまま男を見つめた。

「この者たちはわしの古い知り合いでしてな。わけあって力は貸してもらえないのじゃが、あんたに会わせておきたくて連れてきたのじゃよ」

「そうでしたか、ゴーゴリさん」

 グリニコはこくりとうなずいた。

 ゴーゴリはローランドとレオノールをそれぞれ紹介した。

「あなたがたを真の勇者だと思って、私からもお願い致します。どうか我々に力をお貸しください」

 グリニコは立ちあがると、そう云って頭を下げた。

 ローランドは哀しい顔をした。

「顔を上げてください。あなたのことを見たときから数々の苦難を乗り越えてきた人物とお見受けしますが、俺には先にやらなくてはならないことがあるのです。どうか理解してください」

 ローランドも頭を下げた。

「そうか、残念だが仕方がないな」

 これを見かねたサニエが割って入った。

「あいかわらず頑固な人ね! 困っている男を前にしてもゆずらない。どうしてなの」

 それを制したのはグリニコだった。

「もうよい、サニエ。信念を曲げないからこそ、男なのだよ」

「しかし……」

 ローランドは頭を上げるとグリニコの眼をしっかりと見据えた。

「俺からお願いがあります。今回の戦を遅らせることは出来ませんか?」

 グリニコは決意の表情でローランドの眼を見つめ返した。

「私も頑固ものでね。それを変えることは出来ない。それにこれは私だけの問題ではない。一人一人の信念によって決定されたことなのだよ。私に、それを変える権限はない」

 ローランドはゆっくりとうなずいた。

「そうですか、わかりました」

 ローランドはここに長居しても仕方ないと思い、踵を返そうとした。

 そのとき、奥の通路へと続く暗がりから、一人の男がやってきた。

 男はあえぐように肩を上下にゆらし、大粒の汗を地面に滴らせていた。

 乱れる息を無理やり抑えこみ男は云った。

「お師匠様……間に合いました」

 一同の視線が男に向いた。

 男は空間を一べつするとある人物で眼を止めた。

「ローランド……さん。何故あなたがここに?」

「どうやら奇妙な運命に導かれているようだな、君たちは。はっはっは」

 グリニコは声を出して笑った。


つづく

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