第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十四時間二十分
残り二十四時間二十分
「能力は役に立っているか? ノリエガ」
「いいえ。このご時世、僕の力は遠く及びません」
「そうであろうな……」
僕は月明かりに照らされた大きな背を見つめた。
彼の背は二年前わかれたときと何ら変わりなかった。いや、むしろ大きくなっていた。それを見て、恥ずかしさを隠しけれなかったし、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「本当に私たちに力を貸してくれるのか?」
「困っている人を眼の前にして、ことわる理由がありません」
ローランドならこうは答えないだろうな、と心に浮かんだ。
「そうか、わかった。これからの戦いは想像を絶することだろう。お前の能力では今少し心もとない。これから奥義を伝えようと思うが。どうする?」
「本当ですか、お師匠様」
「うむ。その代わり、覚悟が必要だぞ」
僕は大きくうなずいた。
これで、僕一人でも多くの人々を救える。
これで、強大な敵にも一人で立ち向かえるはずだ。
これで、ローランドたちの力を借りなくてもやっていけるはずだ。
僕の心は踊った。しかし、そのあとによぎった哀しみは何だろう。
心当たりはあった。だけど僕は、それを心の奥底に押しやった。
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「ちょっと待ってくれよ、サニエ」
サニエは面倒くさそうに振り向いた。
「いったい何のようです。ハートネット」
雑踏の中を駆けずり回ったハートネットは、いったん膝に手をついて息を整えた。
「あんたはネクロマンサーを知っていると云ったな。一つ教えてくれ。何故、彼の能力を使って殺された国の人々を生き帰らせないんだ? 君の父親や母親や兵を生き返らせれば、王国の復興も可能じゃないか。それなら、反乱軍を組織しなくても簡単なはずだろう」
サニエは哀しい表情をした。月明かりが彼女を女神のように写している。
ハートネットは思わず生唾をのんだ。
哀しみにとらわれた絶世の王女。守ってやりたい、そう思わずにはいられない。
「あさはかな考えね」
「どうして?」
サニエは小さく首を振った。
「あなたはネクロマンサーの何たるかを知らない。まあいいわ。それは仕方のないこと。心配しないで、約束は守る。この戦いに生き残ったら彼の居場所を教えるわ。あなたご自身の眼で、耳で、真実を知りなさい」
そう云うとサニエは踵を返して雑踏の中へと消えていった。
ハートネットは狐につままれたような感じだった。
結局ネクロマンサーに関して謎だけが深まったのだ。彼女の口調からネクロマンサーは間違いなく死人を生き返らせることが出来る。ならば何故、そうしないのだ。フォルケ王国を復活させればマシアス軍に勝てるかもしれないのに。
いくら強大な武力を持っているといってもニール王はもう歳だ。
マシアス自治領を落として地を固めれば、近衛騎士隊もやすやすとは手を出せないだろう。
失った権力を奪還できるかもしれない。
ハートネットは不可解な謎の正体を見つけるかのように、サニエの消えたあと、じっと立ちつくしていた。
つづく




