第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十四時間三十分
残り二十四時間三十分
ローランドは木製のカップをテーブルに置くと、向かい合って座っている老人の顔を、じっと見つめた。
彼は最近起こった楽しい出来事や、昔話などで談笑を続けていたが、ときおり哀しい表情をのぞかせた。
ローランドにはそれが苦しかったのだ。
「レオノールは酒が飲めないのかな?」
ゴーゴリ老は自分の右側に腰掛けているレオノールを見やった。
「いいえ、彼女は……。それよりも、ゴーゴリ老。俺たちの旅が終わるまで、戦を仕掛けるのは待ってもらえませんか?」
突然の願いに老人は困惑した。
ゴーゴリは手作りのカップを片手に席を立ち、開け放たれている窓際へとゆっくり移動した。
夜も本番にさしかかろうというのに、外の喧騒は衰えを知らない。
ゴーゴリは行き交う人々を見下ろしながら口を開いた。
「わしは村に戻ったとき心に誓った。我が生涯をかけて復讐すると。わしの教育がどこで間違ったのか、もはやどうでもいいことだ。ならば、わしの過ちは自らの手で粛正するしかない。そして、その好機がやってきたのじゃ。いくらおぬしの願いとはいえ、これだけはゆずれぬ。我が六十三年の人生に憑依している過去のしがらみに終止符を打つときが、ようやく訪れたのじゃ。我が息子、マシアスの横暴は自分の手で、立ちきる」
ローランドは偉大な背中に云った。
「マシアスには勝てませんよ」
「なあに、傷の一つでもつけて、悔い改めさせれば、それで本望じゃよ」
振り向いたゴーゴリの顔には満面の笑みが浮かんでいた。一切の曇りのない純粋な笑顔だった。
「そうじゃ、一度、わしらのリーダーに会ってみんか? なかなかの人物じゃぞ」
ローランドは、会うだけならと、コクリとうなずいた。
つづく




