第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十六時間
残り二十六時間
古風な感じの小さな建物に、頭から黒いフードをすっぽりとかぶった者が二人、音もなく雑貨屋のノレンをくぐった。
中には六十を超えるであろう老人が、店の商品である木工細工の商品を並べているところだった。
いらっしゃいませ、と老人が顔を上げると、二人の来客はフードをおろした。
光の元に現れたのは男女だった。
「……もしや、お前は――」
老人は過去を掘り起こすかのように深く刻まれた皺をさらに深めた。
「お久しぶりです、ゴーゴリ老。ローランドです」
「おお、やはりそうか。生きておったかローランド!」
ゴーゴリと呼ばれた老人は顔をクシャクシャにしながらローランドの腕を取った。
ローランドは憂いの表情で握り返す。
「するとこっちはレオノールか、二人ともよく無事だったな」
老人はローランドからレオノールの腕へと移動した。
こちらは表情を変えないが、老人は気にすることもなく続けた。
「わしが旅から戻ったら村は全滅。しかし、村人のために墓がつくられておったからな。かならず誰かが生きていると信じておった。本当に……本当によかった」
ゴーゴリはぼろぼろと涙を流した。
その姿をローランドは申し訳なさそうに見つめているだけだった。
やがて涙をぬぐい、ゴーゴリは落ち着きを取り戻した。
「ところで、何しに来たのじゃ? ここを収める者が誰か知らないわけじゃなかろうに」そう云ったあと、彼は表情を曇らせた。
「ええ、知っています」
ローランドはゴーゴリと同じくらい顔を固めた。
ゴーゴリは、ちょっと待ってくれと云い残し、店の入り口に準備中のプレートを出した。戻ってくると、声を殺して云った。
「おぬしの実力を見こんで頼むのじゃが、今、マシアスを倒すための反乱軍が結成されておる。リーダーを中心にして三百人ほどが集まった。ここでおぬしが力を貸してくれれば鬼に金棒なのじゃが――どうだろうか」
「やはり噂は本当だったのですね」
ローランドは言葉をにごした。
「手伝いたいのはやまやまなのですが、俺には早急にやらなくてはならないことがあるのです。そのことだけに人生を賭けているといってもよいほどのことです」
「マシアスを……殺すことよりも、か?」
ローランドはゴーゴリの眼をまっすぐ見つめた。
「今は、そうです……としか云えません」
「……そうか」
ゴーゴリは残念そうにうなずいた。
「ま、仕方ないのう。ところで今日はゆっくりしていけるのか?」
「ええ、まあ」
ゴーゴリは店の奥へと移動した。
「わしがなつかしい料理をごちそうしてやろう。つのる話しもあるから羽を伸ばすといいぞ」
ローランドは偉大なる老人に頭をさげた。
明るくふるまっているが、誰よりもつらい心境なのは、ローランドにとって痛いほどわかる。
何故なら、ゴーゴリは……。
つづく




