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第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十六時間三十分

 残り二十六時間三十分


 薄暗い王室に光を投げかけるような金髪の男が、隻眼の男とともにワイングラスを傾けている。

 高い天井には豪華なシャンデリアが垂れ下がり、紫色のワインを神秘的に輝かせている。

 王室の唯一の出入り口である装飾を施された両開きの扉が開いた。

 三つの瞳がそこへ移動する。

 外から現れたのは長髪の男だった。

 歳は二十代後半といったところか。くっきりとした眼に高い鼻、白い肌が中性的な魅力を放っている。

 ただ、左目尻にある五センチほどの傷が、彼の美貌に影をなげうっている。

「待たせたな」

 長髪の男の声は低いながらも室内によく通った。

「なあに、高級なワインのおかげで退屈はしませんでしたよ。マシアス陛下」と金髪の男がグラスをかかげる。

「少し急用が入ったのでな」

 マシアス。この町を治める男だった。

「ところで、近衛騎士隊隊長殿が王の元を離れ、こんなところに何の用があるのか。訊かせてもらえますかな? ソレン殿」

 金髪の男はソレンだった。彼もまたこの地へ足を運んでいたのだ。

 彼はグラスをクルクルと回しながら答えた。中の液体が弧を描く。

「ただの寄り道ですよ。急いでもネクロマンサーは見つかりません。それにあなたの国が心配だったものでして」

「ふん。戯れ言を」

 マシアスは微笑の浮かんだ眼でソレンをねめつけた。

 ソレンが嫌味な表情で続けた。

「急用というのは例の反乱軍のことですかな?」

「耳が早いな。そう、反乱軍の首領と思われる人物がこの町に戻ってきたらしい、と報告があったのでね」

 そう云ってマシアスはふかふかの長椅子に深く腰かけた。

「ほほう。それは一波乱おきそうですな。もしよろしければ私たちが微力ながらお手伝いしても構わないのですが」

 ソレンは細い眼をさらに細めた。その輝きにはマシアスを見下すものが混じっている。

「ふん、いらぬお世話だ。ソレン殿は王の任務があるのであろう。そのことに専念すればよい」

 ソレンの笑みは消えない。

「これは失礼致しました。マシアス陛下には天下の亡霊騎士団がおられましたな」

 マシアスは答えなかった。その変わりスックと立ちあがった。

「私はこれから反乱軍討伐の会議があるので失礼する。ソレン殿はごゆるりと滞在を楽しむとよかろう」

「そうさせてもらいます」

 ソレンはグラスを掲げた。

「そうだ、一つ訊きたいことがあるのだが」マシアスは振り向いた。「黒い鎧を身にまとった騎士を知っているか?」

「黒い……騎士?」

「そうだ。わが部隊の者がそやつから並々ならぬ気を感じたそうだ」

「さあ、訊いたこともありませんねえ」

「そうか」

 マシアスはそう云うと部屋を出て行った。

 再び二人に戻ったソレンと隻眼の男は声をひそめた。

「ソレン様。何故あのようなウソを? 黒い騎士というのはおそらく……」

 ソレンの口が眼と同じようにつり上がった。

「解からないか、ストックエイジ? こんなにおもしろいことはないじゃないか。マシアス軍、反乱軍、暗黒騎士、そしておそらくあのローランドたちも絡んでくるだろう。退屈な旅なんだ。少しくらい余興をたんのうしても罰は当たらんさ」

 ソレンは残り僅かとなったワインを一気に飲み干した。

「こうでもしないと、マシアスがすぐに終わらせてしまうからな」


つづく

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