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第一話 笑顔を忘れた街で、謎はさらに深まる その1

パソコンを整理していたら発見! 初めて書いた長編小説。

架空の世界でのバトルと謎。(やっぱり好きなんだな~こういう設定)

自分も、なつかしく思いながら楽しみます。

   第一話 笑顔を忘れた街で、謎はさらに深まる


    1

 周囲を見渡すと僕のアソコはとたんに縮こまった。アタリは日常の空気を圧迫し、負の情念が沈殿している。

 僕は今、非日常の顔を覗かせている城門前広場のほぼ中央の位置にいた。普段は談笑のたえない広場だが、今は一転している。マワリに充満している威圧感を含んだ気が、一般の人々を遠ざけているようだった。風塵(ふうじん)も避けて通る。たしかに防衛の拠点のひとつなので兵士の数は多い、村人が通らなければかなり殺伐としている。しかしこの環境ばかりが僕を委縮(いしゅく)させ、空気を重くしている原因ではない。ここに集まっている者たちが、その理由の大部分を占めているだろう。ざっと数えても三百人。その一人一人が生きた伝説とまで呼ばれている者たちだったからだ。この状況を見て、蒼白となっている僕をノノシル者はいない。むしろよくそんなところにいられるな、と褒め称えられるはずだ。

 僕は圧倒されているのを気取られないように、何気なく、周りへと視線を走らせた。

 千剣のハートネット。幻術士クルーガー。魔人ボイト。闇の科学者ボナム。知っている名前を数え上げればきりがない。一人一人吟味していると、ピタリと、僕の視線はある一点に到達して止まった。

それは黒いマントを羽織った男女だった。

 男は赤い髪に似合わず哀しみに満ちた瞳をしている。長身である胴体をも包み込むほどの巨大な盾が、マントの影から姿をちらつかせている。武器は漆黒の鞭。

 女は黒い髪をさらに暗くするような情のない瞳で、感情という感情を一切有していない、空虚な光を放っている。東方に伝わる民族衣装に身をつつみ――たしか、キモノと云ったか――皮の肩当てや胸当ての軽装備と民族衣装が融合し、何とも云えない奇抜さを生んでいる。素手の為どんな武器を使うのかはわからない。

 この場において、きわめて異質なこの二人。どうやら彼らの放つ、ただならぬオーラに気づいているのは僕だけじゃないようだ。他の者も彼らを意識している。敵意を放つもの、恐れを抱くもの、それほどの気が、あの二人から押し殺すことなく漏れている。いったい彼らは何者なのか。人並み以上の知識を得た僕にも未知なる者たち。

 僕の視線は渦の中心へ導かれるように、彼らから離せなくなった。とその時。

「よくぞ集まってくれた。我らがニール王もたいへんよろこんでおられる。各々が、王のために全身全霊をこめて任務につくよう、心より願っている」

 迷宮から脱出できたかのように僕の意識は開放された。これ以上見つめていれば、謎の男女に精神をうばわれてしまいそうだった。僕を自由にしてくれた声の持ち主は百メートルほど離れた王城の入り口から出てきた中年の男だった。

 宮廷魔術師ローベック。彼は、大した能力はないがずるがしこい頭脳で宮廷魔術師の地位についたようなものだ。宮廷内には彼に不信感を持つものも少なくないときく。

 皆の視線がローベックに注がれた。

 矢面(やおもて)に立ったのを満足しているかのように、ローベックは口元にいやらしい笑みを浮かべて目尻に皺を寄せた。

「それではこれより、ネクロマンサー・ラース捜索任務の説明を行う」

 ローベックは両手を広げ、音吐(おんと)朗朗(ろうろう)な声をさらに張り上げた。

「みなも知っていると思うがネクロマンサーは死者を蘇らせることが出来る。大戦終結から一年後、数々の奇跡を見せたネクロマンサー・ラースがしばらく前から忽然と姿を消した。ニール王直々の任務は、このラースを探してくることだ。しか~し――――」

 ローベックは明らかに陶酔している。僕は段々腹が立ってきた。

「世界を統一した我が国の力をもってしてもラースを発見することは出来なかった。なまはんかなことでは見つけることは出来ないだろう。ラースの生死は問わない。発見した者には何でも好きなものを与える。莫大な富が欲しいか? 国や地位が欲しいか? ラースを見つけるためには手段を選ぶな。何が何でも行方を探り当てるのだ」

 これが、僕たちが集まった理由だった。

 ローベックの一人芝居が終わると、広場を離れる一人一人に紅玉(こうぎょく)が配られた。ラース発見時に割ると、ローベックのもつ杖が光る仕組みになっているようだ。僕も紅玉を受け取った。しかし、先の演説で奇妙な違和感があった。ソレが何なのか、何に引っかかっているのかわからない。わからないが、妙に引っかかる。煮え切らないまま立ち往生していると、さきほどの黒マントの男が紅玉を受け取った。

「ひとつ質問してもいいか?」

 黒マントの男が紅玉を配っている騎士に声をかけた。哀しみに包み込まれた地の底から響くような声だった。

「何だ?」

「ラースを見つけるためなら手段を選ばなくてもいいというのは本当か?」

「ローベック様の云っていたとおりだ」

「……そうか」

 その会話を聞いてあることに思い至った。違和感の正体はこれかもしれない。もしそうなら……。この時僕は気づかなかった。

 黒マントの男の口に、ぞっとするような笑みがもれていることに……。


     ●


 城内に戻ったローベックは通路の端にたたずんでいる純白の鎧に身を包んだ騎士に視線を向けると、口元にさきほどのいやらしい笑みを浮かべながら話しかけた。

「わかっているな、ソレン?」

「もちろんです、ローベック様。かならず、私がラースを見つけることになるでしょう」

 ソレンと呼ばれた男は細い眼をさらに細めて答えた。

「しかし、油断はするな。今回集まったのは只者たちではない。きっと気づく者も出てくるはずだ」

「それはそれで、こちらにしても好都合です」

「くっくっく。ニール様は、お前に期待しているのだ、頼むぞ」

「期待以上の結果を持ち返ってまいります」

 密談はここで途切れ、薄暗い城内には思惑と静寂だけが残った。


つづく

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