男女共学のバイビー90
松田は自分が腹違いの兄弟である事を隠し、若頭の質問に答えて行く。
駐車場で松田がマイクロバスに乗り込んだところを、若頭はナイフを片手に持ち背後から捩込むように脅しをかけた。
「騒ぐな、ヒロは俺の弟だ。あんたのボスに話しを聞きたい?」
この一言を聞いて松田は脱力したように抵抗するのを諦め、隷属した。
「押忍、分かった、ボスに会わせる」
何故か松田に抵抗する気が無いというのを気取り、若頭はナイフを収め、運転席の真後ろの席に陣取り、矢継ぎ早に質問を浴びせて行く。
「俺は霧に関係なくいたたまれない不安があり、発狂しそうな自殺願望があるのだが、あんたはどうだ?」
自分が腹違いの兄弟である素性を隠し、松田が運転しながら言葉少なめに答える。
「俺も同じだ。理由もなく死にたくなる」
フォグランプに照らし出された山道を一瞥しながら若頭が尋ねる。
「何故ヒロを捜さずに山を下るのだ?」
「ボスも我々と同じ状況で、自分に助けを求めているからだ」
「部屋の中にいるのにか?」
スピードは出さず、エンジンブレーキを多用活用しながら松田は運転しつつ答える。
「そうだ。雅会長はヒロの事を誰よりも心配しているからな」
若頭が核心部分に触れて行く質問をする。
「ヒロの消息を探り当てる手掛かりは無いのか?」
「無いからこそ、雅会長は不安におののいているのだ」
車内の暖房が効いて来たので、若頭は急速に脱力し眠気を感じ取ったが、それを堪えつつ言った。
「いずれにしても捜すエリアは湖畔とその周辺の山林地帯しか無いからな。捜索隊がどこかを見落としているのだろう」
見落とすと言う語句に敏感に眉をひそめながら、松田が答えた。
「押忍、俺もそう思う」




