男女共学のバイビー9
いや、この高原から霧に紛れ、尾行を巻き歩いて行けば必ず辿り着けます。必ずと、ヒロは加奈に言った。
リムジンの運転手は当然雅の回し者である事を想定して、詳細に行く先だけを告げると、ヒロは最後尾の座席で加奈に膝枕をして貰い、眠りに就いた。
そのリムジンを一台の黒塗りのワゴン車がつかず離れず尾行して行く。
高速道路を下り、くねり曲がる峠道を抜け、湖を眼下に控えた高原に辿り着いた頃には完全に夜も明けていて、リムジンが止まり、加奈に起こされたヒロが、身震いしながらエンジンを掛けっぱなしのリムジンから降り、加奈がそれに続いた。
リムジンから離れ、朝靄が立ち込めた高原の遊歩道を、背後を意識して腕などは組まず、二人が肩を並べ歩きながら話しをする。
ヒロが眼下に見える朝日に照らし出された湖を指差しながら言った。
「あの湖畔に一際目立つ青と黄色のツートンカラーを施した貸し別荘があります。演技の罵り合いをして店を出入り禁止になったら、必ずこの高原から歩き霧に紛れて尾行を巻きながら迂回しつつ、その別荘に行き、待っていて下さい」
加奈が怪訝な顔をして尋ね返す。
「何故その別荘に行くのに、この高原からわざわざ歩かなければならないの。それに霧に紛れ迂回したら、私も霧に迷ってしまうのではありませんか?」
ヒロがもう一度身震いをしてから答える。
「各自、別個にこの高原から歩き、霧に紛れて完全に尾行を巻かないと、僕等は直ぐに捕まり、引き離されてしまうのですよ」
加奈が軽く身震いしてから再度尋ねる。
「でももし辿り着けなかったら?」
ヒロが湖を注視し睨み据えながら答える。
「いや、この高原から霧に紛れ、尾行を巻き歩いて行けば必ず辿り着けます。必ず」