男女共学のバイビー87
濃霧の中、松田を尾行しながら敵の行動様式は狂っていると若頭は思った。
音無しの構えで濃霧の中松田を尾行しながら若頭は考える。
山道から逸れ、草木の生い茂る樹海を、手探りで点在するであろう自殺した遺体の在りかを、確認しながら探索している敵の意図が分からない。
確かに無残に破壊されたバンガローの中はもぬけの殻で、遺体はおろか血糊や武器荷物、死臭さへも掻き消えていたのは解せない事実だ。
しかし遺体など捜してもヒロは見付からない。
遺体はおろか遺留品も尚且つ死臭さへも掻き消えた、その事実に理解し難い驚愕を感じたからこそ、取り急ぎヒロの消息を求めるべく迅速に次の捜索行動を起こすのが急務な筈なのに、敵は理解不能な狂った動き方をしている。
狂っているとしか言いようが無い。
それはあたかも自殺した者の断末魔の絶叫が黒い影となり、遺体が掻き消え濃霧に呑まれた状況と酷似していて狂っている現象と呼べよう。
その狂った行動様式をもどかしく見守りながら、若頭はいたたまれない程に苛立ち、不安を掻き立てられる。
だが真逆にその狂った行動様式が実は正当なる捜索行動であり、それがヒロの消息を探り当てる近道である事を納得し頷く自分がいる。
そんな狂気の兆しを振り払うべく、若頭は冷たい濃霧を振りほどくように息を吐き出し、小刻みにかぶりを振った。




