男女共学のバイビー86
そんなのは有り得ないと、雅は考えた。
精神安定剤を服用して、いたたまれない不安を鎮めながら雅は考える。
死体や荷物、血糊や死臭さえ消去される事実。
そんなのは有り得ないと雅は思う。
入手出来る情報が錯綜としている現在、特定出来ない第三の敵をおもんばかるが、それは現状を鑑みて有り得ない事だと雅は断じる。
仮にそんな敵がいるとして、何故死体や荷物、血糊や死臭さへも消去しなければならないのか、その有用性が全く意味不明で分からない。
死んだ者の遺体が特定不可能と言うことは、ヒロを捜索しても無駄という事実に繋がって行く。
ヒロの消息は姜として掴めない。
それはヒロが既に死んでいる事を裏付け証明している証にも成り得るのだが、もしヒロが死んでいるにしても、その遺体や遺留品が掻き消えていれば、ヒロの遺体にも辿り着けない事を意味する。
神経を鎮める作用を齎す飲料を啜り飲み、雅は深くため息をついた。
薬物療法にも限界がある。
このままヒロの消息が掴めない状態が推移して行けば、その苛立ちと焦りにいたたまれなくなり、畢竟自分もパニックを引き起こし、激情にかられ舌を噛み切って自決し兼ねないのを感じる。
目を転じ、窓の外を見遣れば、そこには閉塞感しかない濃霧だけが立ち込めている。
その濃霧を見ながら雅はおののき、小刻みに震える手でテーブルの上にあるカップを持ち上げ、口につけ、飲料を飲み下し、むせて咳込み、苦しそうに肩で息をついた。




