男女共学のバイビー63
もしヒロと遭遇した場合、自分が兄である事を打ち明け説得しなさい。打つ手はそれしか無いわと、雅は言った。
ぼんやりとしか見えないナトリウム灯の下、ほふくしながら松田が電話で雅の指示を仰ぐ。
雅が言う。
「近くにヒロが潜んでいる可能性は高いわ。ただ皆にも伝えた事柄だけど、その現場では味方も敵も関係なく連鎖的に自殺している者が相次いでいるのよ。松田、あなたもその自殺願望に囚われる可能性があるから気をつけて頂戴。そして仲間やヒロが思い余って自殺しないように何が何でも阻止しなさい。分かったわね、松田!」
松田が電話に向かってかしづくように応答する。
「押忍」
雅が続ける。
「その濃霧は捜索を困難なものにし、人をいたたまれない不安に陥れる作用があるのよ。だから余り激しく動かず、ほふくして突き上げる自殺願望を抑え、仲間やヒロを救助する事に専念して頂戴。やがて霧も晴れ、捜索は容易になるわ。その時までじっと堪えながら、チャンスを待つのよ。分かったわね、松田?!」
「押忍」
「そして松田、もしヒロと遭遇した場合、自分が兄である事を打ち明け説得しなさい。打つ手はそれしか無いわ」
松田が充血した眼を細めくぐもった声で応答した。
「押忍」




