男女共学のバイビー6
松田、あなたがヒロの兄である事を名乗るタイミングが近付いているようねと、雅は言った。
夕暮れの会長室。
雅が松田に命令を下す。
「あの加奈という子への監視を強めなさい」
直立不動の形を崩し、坊主頭で肉太の松田が隷属するように頭を下げ、口ごもるような感じで押忍と返事を返した。
車椅子を自分で操作してシックなグレーのスーツを着こなしている雅が松田の方に顔を向け、続ける。
「松田、あなたがヒロの兄である事を名乗るタイミングが近付いているようね」
松田が驚き瞬時眼を見開きつつも、再びうなだれるように相槌を打ち、押忍と答えた。
雅が松田から視線を外し、再び窓際に車椅子を進めてから告げる。
「正し、私が良しと言うまでは、それは言い出さないで頂戴」
松田が視線を床に落とし押忍と返事を成す。
雅が夕暮れの空を慈しむように見遣りつつ言った。
「いずれにしても、あなたに取っても私に取っても、ヒロの命が肝心なのよ。ヒロの命を護る事が至上命題なのよ。分かるわね、松田?」
松田が顎を引き、顔を上気させながら押忍と答えた。
雅が愁いを湛えた目付きをして、独りごちるように言葉を繋いで行く。
「それを邪魔する者は誰であろうと、容赦しないわ。誰であろうともね…」