男女共学のバイビー52
影死ね、影死ね、影死ねば楽になるぞと自分を呼ぶのですと、頭は泣きながら言った。
敵の叫び声を聞き付けて、若頭率いる救援部隊が濃霧の中若頭の指示の下、分散、草木生い茂る薮の中にほふくして身を潜める。
それと同時にバンガローの外に独り取り残された頭から電話が掛かり、若頭は電話を耳に充て応答する。
頭が涙声で言う。
「か、固い霧に邪魔され、足が重く、もうこれ以上歩けません。若頭、は、早く来て下さい。何か濃霧の中で踊る固い女の霧の声が自分の歌う呼び声となり、影死ね、影死ね、影死ねば楽になるぞと自分を呼ぶのです。わ、若頭、固すぎる霧の声が暗い海のように踊りながら自分を呼ぶのです。そ、そして自分は霧になり、死にたくて仕方ありません。で、でも逆に死にたくはないのです、若頭、い、一刻も早く来て下さい、固い霧の中、自分の声は踊り疲れました、若頭…」
若頭が身震いし深呼吸して狂い出しそうな己の気持ちを何とか鎮めてから応じる。
「しっかりとするんだ。眼を閉じて今いる場所から動くな。相次ぐ自殺者が出ている原因は、このいたたまれない不安を煽る濃霧にあるのかもしれないんだ。だから濃霧を見詰めてはならないのだ。眼を閉じて気を落ち着けるんだ。分かったか?」
頭がひとしきり嗚咽してから言った。
「はい、分かりました、若頭。こ、ここから動かずに霧を見ないように眼を閉じて待っていますから、早く来て下さい。後生だからお、お願い、します。若、頭、お願いします」




