男女共学のバイビー4
自分は雅会長の下撲も同然ですからと、ヒロは言った。
警戒しつつ七色のミラーボールが回るホストクラブに入り、ヒロを本指名した加奈は指定された席に着き、ヒロが来るまでのインターバルを生かして周囲に流し目をくれ、ホール内に自分を脅した大男がいないのを見て取り、ひとまず安堵し、胸を撫で下ろし吐息をついた。
そして場内アナウンスの指示に従いヒロが着席するのと同時に、加奈は計算通り弱々しい女を演じつつ事のあらましをヒロに耳打ちして庇護を求めた。
グレーのタキシードを纏ったヒロは眼を見開き驚く素振りを見せたのだが、心を落ち着かせる為に一度深く息を吐き出してから、小声で話しを切り出した。
「すいません。それは自分の顧客で雅会長という人です。雅会長という人は自分が少しでも気にいった客をそうやって脅す癖があるのです。本当に申し訳ありませんでした」
加奈が狡猾に酷くうろたえる表情を作ってから、再度ヒロに耳打ちして行く。
「私、ヒロさんを諦めないと本当に殺されてしまうのですか。もう二度とヒロさんには会ってはいけないのですか?」
ヒロが上気した顔付きをして深呼吸を為し、熟慮する間を置いてから答える。
「いえ、逆です、加奈さん。逆に店には堂々と来て出来るだけ自分に貢いで下さい。そして雅会長の監視の下、普通に店外デートとかもして自分に貢ぎ上げた後に、加奈さんが来店して、血相を変え、わざとらしくもう自分には貢ぐ金が無いと言って喚き散らし、情け無用冷ややかに自分に棄てられて下さい。それで雅会長の刃は回避出来る筈ですから。よろしくお願いします」
潤み甘えねだるような目付きをしてから加奈がヒロに尋ねる。
「ヒロさんは今までも、そうやって雅会長さんのジェラシーをかわして来たの?」
愁いを湛え息を吐き出し、ヒロが相槌を打ち答えた。
「そうです。グループを率いる雅会長には富も強大な力も有り、自分は雅会長の下撲も同然ですから…」