男女共学のバイビー198
若頭の言葉に、松田がピエロのような表情を作った後、力強く微笑み、大きく頷いた。
涙が涸れる程に泣き続け、若頭と松田がバンガローに到着、加奈と合流した。
バンガローに入るのと同時に、先手を打つように若頭が涙を拭い、自分を鞭打つように告げた。
「泣いたとて死んだ者は帰って来ないし、ここで全員泣くのは止めよう」
その言葉に恭しく頷き従い、松田と加奈が銘々溢れ出る涙を拭い、自然発生的に善後策を模索する事後ミーティングが全員座して交わされる運びとなった。
心身ともに疲労困憊、疲れ切っているのを押して若頭が自嘲ぎみに口火を切る。
「今ここにいる三人はパズルの集団自殺に勇気を以って挑んで、命は助かったが、畢竟全員生還の偶然の一致と言うコマの割り振りの賭けには負けた三人組となるわけだ…」
松田と加奈が涙ぐみつつも、泣くのを何とか堪え呼応するように相槌を打ったのを確認してから若頭が続ける。
「我々はその賭けに負けた結果、全てが後手に回り、掛け替えの無い人を二人も失い、尚且つ今は一旦収束したが、再び増殖するパズルの集団自殺の餌食になり、二人の後を追う可能性も極めて高く、予断は許されないわけだ…」
松田が涙ぐんだ瞼を閉ざし「押忍」と異論なく同意し応じて、それに連動して加奈も大きく頷いたのを確かめ、若頭が己の存念を込み上げる悲しみに打ち震え、わななきながら言い繋いで行く。
「我々三人は極限の修羅場をかい潜り生き残った。理想像としての賭けには負けたが、それはどんな宝よりも素晴らしい成果だと俺は思っている。そしてこれ以降再度パズルの集団自殺に襲われようとも、三人一致団結して戦えば絶対に負けはしないと言う自信を身につけた事も、間違いない事実だと俺は断言出来るわけだ」
ここで関が切れるように若頭が熱く溢れる涙をぽろぽろと流し、声を出して「ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ」と言いながら啜り泣き、ひとしきり嗚咽してから、その涙を拭い、震える声で改めて告げて行く。
「死んで行った二人の弔い合戦、敵討ちと言う意味合いでも、我々三人は一致団結、連絡を取り合い、絶対に自殺自決などせず、生き延び、パズルの集団自殺に一矢を報い、完全勝利して行こうではないか」
その言葉を聞き、加奈がむせび泣き、頷いたその傍らで、松田が溢れ出る涙をふっ切るように太い声で「押忍」と言い、ピエロのように泣き笑いする表情を作ってから、力強く微笑み、大きく相槌を打った。
この小説は書いている途中、行方不明になっている弟と、投身自殺を図った兄の気持ちが洪水のように押し寄せて来て、どうにも涙が止まらなくなりました。でもこの小説の成果は、弟の気持ちと兄の気持ちに正面から向き合い、無知な自分にも少なからず理解出来た事が、そのまま希望だと思う次第であります。m(__)m
生きる事とは何か人生とは何かと言う命題は、これからも自分の試金石、座右の銘にして小説作りをして行きたく、拙著通読有り難うございましたm(__)m