男女共学のバイビー196
若頭が悲痛な涙声で加奈に「そこで、動かずに待っていてくれ」と告げた。
加奈は夢うつつの状態で、まるで曼陀羅模様のようなパズルの集団自殺のコマの割り振りが加速度的に動く、その悲しいパズルの割り振りの夢を見ている。
一組の悲しい男女の顔が、整合性の無い黒い縁取りのコマにそれぞれ割り振りされて行き、めくるめく悲しみを湛え離別し、混沌の坩堝に吸収されながら遠ざかり消失する夢だ。
その悲しいコマ達の群れは別離を歎き悲しみ、悶え苦しみながら崩壊、黒い墓標のように個別の背景をも暗転めくるめく消失して行く。
そして加奈は消失した一コマの顔とその背景に何処か見覚えがあり、それが何処で誰であったのかを思い浮かべようとするのだが、どうあっても出来ず、そのもどかしさに身震いしながら瞼を開き眼を覚ました。
バンガローの外は朝を迎えていて、電灯が点いている室内はその分非常に明るく、加奈は直ぐさま異変に気が付いた。
無数に聞こえていた足音が聞こえなくなっており、いる筈の雅の姿が車椅子ごと無い事に。
加奈は動揺し狼狽する自分を、深呼吸を繰り返して何とか落ち着かせてから、溢れ出る大粒の涙を流しつつ雅の名前を呼んだ。
「雅、か、会長、雅会長、雅、会長、会長さん、何処にいるのですか、返事をして下さい、加奈です、会長さん?」
いくら呼びかけても雅の返事はなく、加奈はおののき震える手で電話を手に取り、若頭に電話を掛けた。
程なくして若頭が電話に出て、加奈は縋り付くようにバンガローの状況を矢継ぎ早に喚き散らすように説明すると、若頭が震え悲痛な声で「ヒロは投身自殺した。雅会長の遺体は多分パズルの集団自殺に吸収され消失したのだと思う。だが、もう足音は消えたから、加奈さん、早まった事は考えず、俺と兄貴でそちら向かうから、そこで動かずに待っていてくれないか…」と言い、加奈は震えおののく手で電話を持ち直し「わ、分かりました。待っていますから、直ぐに来て下さい、お兄さん!」と答えると、若頭がわななき震え悲しみを押し殺す涙声で言った。
「わ、分かった、す、直ぐに行くから、そこで、ま、待っていてくれ…」