男女共学のバイビー195
若頭が「分かった、兄貴…」と言った。
断崖絶壁の前にうずくまっている松田に「兄貴!」と声を掛け、若頭が瞼を伏せてピエロのように泣き笑いしている松田に歩み寄り「ヒロは?」と尋ねたのだが、押し黙ったまま松田の返事は無く、若頭は眼を見開き驚愕して、そのまま慎重な足取りで崖っぷちまで進み、ヒロの名前を呼び泣き叫ぶ。
「ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ、ヒロ!」
そのまま崖っぷちに突っ伏して、若頭は声を限りにひとしきり号泣し、急に泣き止んで、立ち上がり優しい口調で言った。
「ヒロ、今俺も行くからな、待っていろよ、ヒロ」
そう言って若頭が投身自殺するべく風に逆らうように助走を付けたところで、咄嗟に立ち上がった松田が「駄目だ!」と怒鳴り、勢い良く体当たりをかました。
そのまま転倒した若頭に向かって馬乗りになり、松田が声を限りに喚き散らす。
「し、死ぬな、死んじゃ駄目だ、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死ぬな、お、俺を一人にしないでくれ!」
血走った眼で松田を見上げ「兄貴…」と口走った若頭に向かってなりふり構わず頭を下げ、もう一度松田が泣き叫ぶ。
「死ぬな、死なないでくれ、なっ、頼む、俺を一人ぼっちにしないでくれ、死ぬな、死ぬな、死ぬな、死なないでくれ!」
涙ぐんだ眼を見開いたまま若頭が顎を引き、おもむろに頷き答えた。
「分かった、兄貴…」
その言葉を聞いて、松田が熱い涙を流しながら立ち上がり、しゃくるように顎を上げ、声を限りに慟哭した。