男女共学のバイビー193
風に胸に迫る万感の思いを託し、生きる息吹を乗せるようにヒロは身を投げた。
朝靄を抜け、風が逆巻いて吹いている断崖絶壁を前にしてヒロは立ち止まった。
家族と共に死ねる喜びにヒロは涙する。
真っ暗な絶望の中に本当に一握りの光明が射した兄弟との再会に、ヒロはひたすら涙している。
寂しいだけの人生。
もう思い残す事は無い。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」と背後のパズルの集団自殺は早く自分が死ぬ事のみを催促しているが、狂って泣き笑いしている心の奥底で、パズルの集団自殺のお陰でこんな風に兄弟に再会出来た事を、ヒロは感謝し、振り返りおもむろに手を顔の横に持ち上げ、泣き笑いしながら恭しく敬礼、会釈した。
そして崖っぷちまで慎重に歩を進め、泣き笑いする自分自身に問い掛ける。
「寂しいだけの人生に意味は有ったのか」と。
「意味なんか無い」とヒロは自らを嘲るように結論を下した。
そして母親に置き去りにされた時の情景が目に浮かぶ。
生きる価値すら無い自分は、置き去りにされる事が人生の意味だったのだとヒロは思う。
その寂しさに追いやられるように生きて来て、その寂しさの量が少しも減る事はなく、今寂しいだけの死を目の前にしている。
孤独死。
それは生きる価値の無い人間には正に相応しい選択肢だとヒロは思う。
寂しいだけの死を選んだ自分には、寂しいだけの人生を呪い歎き、泣く権利なんか無いのだと、自分に言い聞かせ、手の甲でひとしきり涙を拭い、ヒロは前に進み、風に胸に迫る万感の思いを託し、生きる息吹を乗せるように身を投げた。