男女共学のバイビー188
松田は小声で「死ね」と呟き、そのまま砂の斜面を思いを切ったようにダッシュして、狂った笑いのままに走り出した。
若頭がヘルメトを脱ぎ額の汗を拭ってから、狂気に凍り付いたような固い微笑みを湛え砂の斜面を指差し言った。
「あの朝靄の向こう側にバンガローは間違いなくあるのだな?」
ヒロが気色ばみ相槌を打ち、会心の笑みを頬に浮かべ嬉しそうに答える。
「そうですね、兄貴。あの朝靄は自分達がパズルの集団自殺から抜け出す天国への道しるべなのですよ。この足音もあの朝靄の中で完全に消え失せ、我々は寂しさなど一切無い、真の愛だけがある救いの別天地、パラダイスに赴くのです。そして我々はバンガローに到着、全員生還凱旋を図り、喜びだけを交わし合う至福に満ちた再会を果たすのです、兄貴!」
その言葉を聞き、松田がピエロのように涙ぐみ泣き笑いしてから頷き、それに連動するように再び無数の足音がざわついた。
そのざわつく音を聞き、それはあたかも自分の心がパズルの集団自殺そのものとなり、二人を自殺に導き殺すのを悦び、返す手で自分をも滅する、パズルの集団自殺のコマ割り振りの結合、離反、加速移動する軋み音のように、松田の耳には聞こえた。
強圧的に隷従虐げられ、鬱屈、抑圧され歪み閉ざされた恋心とジェラシーが、そのはけ口を求め激しい憎悪となって狂い増殖拡散して、夥しい数の殺意に満ちた足音を軋みざわつかせている。
ヒロに対する嫉妬に裏打ちされた激しい憎悪と燃えたぎる殺意が、目まぐるしく泣き笑いしながら回転するピエロの泣き笑いする独楽となって、パズルの集団自殺の足音を位相転位混沌のままに撹拌し、ざわつかせて、その忌まわしくも激しい憎悪が臨界質量を越え起爆しようとしているのを感じ、松田は小声で口元を綻ばせ微笑みながら「死ね」と呟き、そのまま砂の斜面を、思いを切ったようにダッシュして、狂った笑いのままに走り出した。
そしてその足音に触発起爆されたパズルの足音が若頭とヒロに抗えない圧力を掛け、二人はその万力のような力に弾き出されるように背中を押され、涙を四散させ、泣き笑いしながら砂を蹴り、松田に続いて走り出した。