男女共学のバイビー187
松田、ピエロの足音になって悲しげに踊るのを止めなさい、松田と雅は叫んだ。
聴覚を研ぎ澄ましている加奈の脳裡に、唐突に赤と白のツートンカラーの色を施したピエロの顔のパズルのコマが心象風景として現れ、それが崩れ去り、泣き笑いして無数の足音となり広がり、戦慄しおののく加奈の後頭部を貫通し、床に着地して拡散走り出し、不意に無数であると同時に単数としての複数として化し、理不尽に二手に分離して、外側に拡散している筈なのに同時に収縮、加奈の左右から襲撃衝突し、加奈に悶絶する程の激痛を与えながら交錯して行き、加奈は車椅子から両手を離しよろめき、つんざくような悲痛な悲鳴を上げた。
そして自分の心がツートンカラーのピエロの足音となり、自分を殺すピエロの泣き笑いする足音となっていると言う不条理な加奈の考えが、位相転位し捩れ、瞬時に雅の心となり、雅はその心の拡散と同時に収縮する足音に左右に繰り出される平手打ちをくらい、その同時に繰り出された二発の平手打ちに左右に狂おしく首を振りながら、頭の心が痺れる程の痛みを覚え脳震盪を引き起こし、めまいを覚えた。
そして加奈が気力を振り絞って態勢を立て直し、再び車椅子を両手で持ちながら雅に向かって喚いた。
「み、雅会長、ピエロの足音に殺されてしまいます。この憎しみしか無いピエロは誰なのですか?!」
雅が泣き笑いしながら、まるでピエロの足音になった松田のしゃがれた声で悲しげに「押忍、俺は松田だ」と言い、その声が足音になって、今度は加奈の首筋を正面からのけ反らせる程に激突、貫通して、加奈は激痛に絶叫を上げ、後ろに吹き飛び倒れ込んだ。
そして雅が狂おしく泣き笑いしながら喚いた。
「松田、ピエロの足音になって悲しげに踊るのを止めなさい、松田!」