男女共学のバイビー184
加奈さん、私の車椅子をここに来て押して頂戴と、雅が加奈を促した。
無数の足音の襲撃が恐怖をそそる緊迫する状況を打開すべく、雅が加奈を取り急ぎ促す。
「加奈さん、私の車椅子を押してくれないかしら?」
加奈が訝る。
「か、構いませんが、どうしてですか?」
「加奈さんは歩ける身だから、でも私は咄嗟には動けないし、二人まとまって的を一つにして、足音がこの車椅子と私達に衝突する前に避けて欲しいのよ」
加奈が頷き立ち上がって「わ、分かりました。やってみます」と言い、雅の後ろに張り付いて車椅子を機転を利かして暫時動かす態勢を取った。
雅が荒い息を調え気力を振り絞り号令を掛ける。
「とにかく足音が私達の身体に致命傷を負わせないように少しでも動かし微調整して、的を外して欲しいのよ。加奈さん、お願いね?!」
加奈が手の平に滲んだ脂汗をズボンで一度拭い、恭しく頷き震える声で答える。
「分かりました」
四方八方から足音が壁を貫通侵入し、走って壁を抜けて行く無数の音に耳をそばだて澄まし、加奈が息を吐き出し、呼吸を止めた瞬間、右横から侵入した足音が車椅子に向かって走り衝突しようとしたその時、加奈は踏ん張り車椅子を押して、衝突する足音は寸前で的を外し、車椅子と加奈の間を音を立てて擦り抜けて行った。