男女共学のバイビー181
雅と加奈。直面する不条理世界で二人は必死に理性を保とうとして励まし合っている。
加奈がかぶりを縦に振り悲壮感漂う感じで言った。
「そうですよね。動いていませんよね。これは眼の錯覚ですよね、会長?」
雅が高ぶる感情を押し殺し、直面している状況を出来るだけつぶさに分析して、己の理性を保とうとする。
「この妄想は、物体に衝突、物理的な衝撃を与えるけれども、相矛盾して傷付けず、痛みも与えずに身体を貫通して行く幻覚妄想なのよ。そんな物理法則はこの世には絶対に無いわ。だからこれは正しく幻覚なのよ。パニックを引き起こすと、本人は激しい動悸と息苦しさを感じるけれども、心電図も脈拍は正常で、実際には呼吸も正常に出来ているわけじゃない。だからこの目の前で起きている現象も、それと同じ理屈で、私達二人が共有する単なる妄想、幻覚に騙されているに過ぎず、実際現実には何も起きていないのよ。私はそう思うわ。加奈さん」
加奈が頷き言った。
「そうですよね。私達は心を壊されそうになっているから、身体さえも妄想と現実の狭間に誘導され半分居て、足音が衝突する衝撃を痛みなく感じ、足音が貫通しても肉体には傷がつかず、車椅子も移動していないのに、移動しているように見えたのですよね、会長?」
雅がしきりに頷き答える。
「そうよ、そうよ。お兄さん達三人も同一の妄想にかられ山林地帯をさ迷っているのと、このバンガローは同じ状況なのよ。仮に幻覚や妄想が物理的効果をもたらすにしても、衝撃だけ与えて、痛みや傷はつけられない力なのよ。だから私達は死なずに生きているのだしね。これは全て妄想錯覚の類なのよ。加奈さん?」
加奈が同感する。
「私達は完全に狂ってはいないから、妄想と現実の狭間にいて、衝突の衝撃や、車椅子の移動は見えたのだけれども、足音が貫通しても身体に傷はついていないし、痛みも感じない状態なのですが、完全に狂ってしまったら、致命傷も実際に出来激痛を感じて死んでしまうのですよね、雅会長?」
雅が頷き言った。
「そうよ、私達は現実と幻覚妄想の狭間にいるのだけれども、しっかりと理性を保って、生きる為には現実の方に心を置く必要があるのよ、加奈さん」




