男女共学のバイビー164
松田はパントマイムを踊るピエロのように泣き笑いして、独りごちた。
ヒロの悶え苦しむ声を聞き付け、松田が歩み寄り、ヒロに顔を近付け穏やかな口調で「ヒロ、だ、大丈夫か?」と言い、ヒロがその声を聞いて安心して、子供のように泣きじゃくった後、震える声で言った。
「松田の兄貴すいません、自分は大丈夫ですから」
そう言われ、ひと安心して山道に戻り歩き出した松田の脳裡に、若頭に拳銃で頭を撃たれ、苦しみ悶えて死んで行くヒロの顔が映っているパズルのひとコマの映像が浮かんだ。
そしてヒロは撃たれ白目を剥いて絶命し、コマは暗転したのだが、それを見た松田は、あろうことか雅に対する恋心が疼き胸が痛んだ。
だがその胸の痛みは弟を殺された悲しみの痛みではなく、逆に殺された事を素直に喜ぶ痛みであるのを恥じて、松田は戸惑った。
ヒロが死んで喜ぶ自分は確かにいるのだが、理屈で考えれば、ヒロが死ねば雅も死に、雅が死ねば、自分も死ぬので、ヒロの死ぬ事はとてつもなく大きな悲しみな筈であるのに、恋心は逆に疼いて喜んでしまう自分がいる。松田は口元を結び泣き笑いの表情を作り、涙ぐんだ。
悲しむ心と相矛盾して喜ぶ心。
矛盾する二つの感情の中で心は激しく揺れ動いている。
ヒロは自分のエゴを捨てて兄弟愛を貫いているのに、自分はヒロが死ぬ事を心の底で喜んでいるていたらくを松田はひたすら恥じて。
まるでパントマイムを踊るピエロのように泣き笑いして、松田は涙ぐみ独りごちた。




