男女共学のバイビー16
何故そうなるのかは分かりませんが、そうなるからそうなるのですと、ヒロは加奈に言った。
ツートンカラーの貸し別荘に到着加奈と合流したヒロは、喜びを分かち合う暇も惜しみ直ぐさま加奈に決意を促すべく用件を切り出した。
「自分も加奈さんもこの国を裏から牛耳る二つの巨大組織に追われている身です。つまりこの安全な別荘から外に出たら、加奈さんは間違いなく捕まり殺されてしまいます。この意味は分かりますね?」
ソファーに腰掛けた加奈が足を組み直し血走った眼で尋ね返す。
「つまりこの別荘で前途を悲観して、あなたと手に手を取り心中しろと言うの?」
背筋を伸ばし、ソファーに浅く腰掛けながらヒロが恭しく頷き答える。
「そうです。自分は淋しがり屋で到底独りでは自殺出来ません。ですから加奈さんに、一緒に心中して貰いたいのです?」
加奈があっけらかんとした態度で一声鼻で笑い言った。
「奢り高ぶらないでよ。あなた何様のつもりでいるの。何故私があなたとなんか一緒に死ななければならないの。大体何故この別荘にいると殺されないで済むの。そんなの矛盾しているじゃない?」
ヒロが真剣な眼差しをして答える。
「時空間が異なる異次元には通常の人間は入れませんから、この別荘は安全なのですよ」
再び加奈が嘲笑い小馬鹿にするように言った。
「私は普通の人間よ。でも私はこの別荘に入る事も出来たし、ここに座っているけれど、それはどう説明するの?」
加奈の顔を無心に見詰めながらヒロが答える。
「それは加奈さんが、濃霧の遊歩道に入り尾行を巻いて、この別荘に辿り着くという手続きを踏んだ特別な人間だから入れたのです」
加奈が険悪な目付きをしたまま眼を細め言った。
「だから私はこの別荘にいる限り、異次元の存在で通常の人間には手が出せないの?」
ヒロが答える。
「そうですね。理屈ではそうなります」
加奈がヒロの言葉を突っ返すように高笑いしてから言った。
「それじゃ、私は異次元存在だから表に出ても安全じゃない。違うかしら?」
ヒロが首を振り答える。
「いえ、外に出れば普通の人間に戻り、殺されてしまうのです」
首を傾げ加奈が尋ねる。
「何故そうなるの?」
ヒロが難しい顔付きをしてから答えた。
「何故そうなるのかは分かりません。そうなるからそうなるのです」