127/198
男女共学のバイビー127
再び生還を期して加奈は歩き出した。
赤子の声が聞こえなくなり、不意に加奈は理性を失い濃霧の中を泳ぐパズルになって色とりどりに狂い飛んでいる。
自分の壊れた脳回路で出来た空飛ぶパズルに弾かれるもどかしいバネの破壊飛行だ。
そして濃霧と混じった赤子の声が雨となって宇宙空間の暗黒を塗り替え、その苦悩に震える魂が濃霧の叫び声を上げている。
迷子になった自分の足元を赤子の魂が星となって流れて行く狂おしくもはかない時間。
叫び声は赤い点となり、落下して無数の死となる墓標を垣間見せる。
「独りぼっちの赤ちゃん、辛く寂しい時空間は歎きの産声なの?」と、加奈は自問自答する。
答えは無い。
死んでお詫びする子守唄の歌声にかしづく人々の群れを横目に見て、加奈は方向感覚をなくしたまま下から上に理不尽な垂直落下をして足元から降り立ち静かに瞼を開いた。
そして涙を拭い、加奈は震える手で柵に掴まり、再び生還を期して歩き出した。




