男女共学のバイビー124
ヒロに生死の境をさ迷っているという自覚は無い。
自分は世間からはぐれた永遠の迷子だと思う。
永遠の迷子は何処まで行っても独りぼっちで愛から見放されているのだ。
愛から見放されたら死ぬしかない。
寂しいだけの孤独死を迎えるのが定めならば、絆から見放された人間は生きる意味権利すら無いのか?
不安をそそる悍ましい濃霧は己の心を恐怖で熔かし、溶けた分、自分自身の濃霧そのものになった声となって優しく自分に語りかける。
「そうだ。独りぼっちの人間に生きる権利は無いから、早く死ねばいいのだ。それで楽になるからな」
自分の狂った状態を濃霧は全く正気だと錯覚させてくれるからこそ、濃霧の中に埋没して死ぬ事は少しも恐くはない。
狂気の本、死の恐怖は見事に消え失せる。
だから兄貴達との絆を断ち切り、濃霧が見せてくれる安楽の狂気としての死に勇躍飛び込んでしまえば、どれ程楽な事かとヒロは思う。
だがそれは身内との絆を完全に断ち切る事なので、自分には寂しくて到底出来やしない。
濃霧の中、不安におののき揺れる心が際限の無い自問自答を繰り返し、生死の境をさ迷っているのだが、ヒロに生死の境をさ迷っているという自覚は露程に無い。
そんな状態が続いている。




