男女共学のバイビー122
濃霧に抱かれながら、自分の狂おしい笑い声に違和感を感じ、若頭はかぶりを振って我に帰った。
若頭は立ち止まり濃霧を払いのけるように一つ身震いした。
方向感覚が失せ、柵を頼りに道順を確かめ着実に進むしか無い。
濃霧の中でヒロの事を心配すると、神経が逆なでされ、それが直ぐさま動悸の高鳴りに直結し、いたたまれない不安となり、死にたくなって来る。
その動悸の高鳴りが身体全体を脈打ち、そのまま命がその音に飲み込まれてしまう事の恐怖が裏返って陶酔感に変わり、死に対する恐怖心が失せて恍惚となってしまうのだ。
死に対する激烈なる恐怖心が霧を見ていると消え失せてしまう。
ヒロは幼い頃青いスモックをよく着ていた。
「兄貴、死なせて下さい。兄貴、死なせて下さい」
その言葉が青いスモックを着て涙としての濃霧となり優しく溶け、静かに自分を手招きして呼んでいる。
そのスモックの青さが心臓の動悸となって「兄貴、寂しいから死なせて下さい。兄貴、寂しいから死なせて下さい。死なせて下さい、兄貴」と切なく呼ぶのだ。
そのいたたまれない悲しみが死の恐怖を陶酔感に変えているのならば、濃霧の脈打つ動悸は、ヒロの優しさに似ていて限りなく愛おしく、死ぬ事など怖くないと若頭は思う。
そして狂おしく微笑んだ後、唐突に若頭は自分の笑い声に違和感を感じて我に帰り、かぶりを振って再びゆっくりと歩き出した。




