男女共学のバイビー119
私のお馬鹿さん、まだ始まったばかりじゃないと、加奈は己を叱咤激励した。
晴れていれば絶景を愛で自然の息吹をこよなく慈しみながら、楽しく散策出来る筈の高原が濃霧の出現と共に無間地獄と化す。
先発した加奈が順路を恐る恐る手探りの状態で歩いて行く。
視界が全く閉ざされ、前方の濃霧を凝視しただけで本能的におののき、理屈抜きに恐怖し不安になり身震が止まらなくなる。
道は上り坂で、少し歩くだけで息が切れ、額に汗が滲む。
その汗を手袋で拭い腕時計をそぞろ見遣った瞬間、くらりと目眩がして方向感覚が狂った。
そして身体が勝手に方向転換して、自分が上って来た道の方に進み出し、それが緩やかな下り坂である事に気が付き、加奈は足を止めて独り狂ったように笑った。
そして次に加奈はこう考えた。
何故自分は今笑ったのだろうかと。
方向感覚が狂ったのを笑ったのか、心が発狂し始めたのがおかしくて笑ったのか、どうにも区別が付かない。
そんな感覚の麻痺狂いを修正するべく、加奈はおののき小刻みに震える手で水筒のキャップを開け、レモン水を一口飲んで飲み込み、むせて咳込んでから又狂ったように笑い、喘ぐように一度深呼吸してから己を叱咤するべく独り言を呟いた。
「私のお馬鹿さん、しっかりとするのよ、まだ始まったばかりじゃない!」




