男女共学のバイビー
整合性があると錯覚している現実世界の条理を、本来あるべく宇宙の一元論的整合性カオスにほうり込み、そこで繰り広げられる死闘を通して、人の心の美、真の愛の姿が試される、その様を的確に追いかけます。よろしくお願いしますm(__)m
Scene、1
伽藍としたホストクラブのホール。
長椅子の上でヒロは目覚めた。
飲み過ぎたせいで頭が痛く、ヒロは立ち上がりふらつく足取りでキッチンの方に赴き、タンブラーに水を入れて一息に飲み干し、ため息をついた。
胃がむかつき、吐き気がするので、ロッカーに行き胃薬を飲もうと思いヒロは踵を返し、ドアを押し開けたところで「おはよう」と声をかけられた。
キッチンのチーフが軽く挙手して微笑みながらもう一度言った。
「おはよう。どうだ気分は?」
頭を掻く動作をしながらヒロが答える。
「よくありません」
チーフが笑い言った。
「それはそうだよな。あんなえげつない飲み方すりゃ、意識遠退いて、下手すれば天国行きさ。こちらの世界で目覚めたのを感謝しないとな?」
ヒロが照れ隠しの笑みを頬に浮かべ弁解する。
「あの客には一気飲みする際の目隠し、口の両端から全部流し捨てるというごまかしが効かないと思ったのですよ。すいません」
チーフがヒロを促しつつ薄暗い待機席に移動して座り、煙草に火を点けて、一服した後、紫煙をくゆらせながら真向かいに座ったヒロに尋ねた。
「あの客初めての客だろう。それがお前にとっては、ごまかしの効かない特別な客に見えたのか。お前あの客に惚れたのか?」
胃がむかつくのをヒロが堪えながら答える。
「いえ、惚れてはいませんが、何かあの客には自分が待っていたものがあると感じ、少し上気して商売気が無くなる飲み方をしてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」
チーフが首を傾げ訝りつつ尋ねる。
「お前何を待っていたんだ。最愛の人か?」
ヒロが手で腹部を摩すりながら答える。
「ええ、そうですね。最愛と言えば最愛だけれども、でも最愛のニュアンスが違うから、やはり最愛ではありません。すいません」
チーフが大口を開けて高笑いしてから言った。
「おい、おい、それじゃ尋ねるけど、お前にとっての人と違う最愛の人のニュアンスとは何なのよ?」
ヒロが答える。
「それは言えません」
きょとんとした顔付きをした後、チーフが苦笑いしてから言った。
「秘密か?」
ヒロがやるせない笑みを湛えて、言った。
「極秘事項です。すいません」
Scene、2
ヒロはある裏組織の子飼いのホストだ。
以前その裏組織の準構成員だったヒロは、勤めるホストクラブの客とねんごろとなり、とち狂って組織の金を横領し、逃げた経緯がある。
当然のごとくヒロは捕まり、客とは離別させられ、ホストに戻り、組織の損害を百倍付けで賠償返還する囚われの日々を送っている。
常に監視状態のヒロは、自殺する自由さえ奪われ悲嘆に暮れている中、いちげんの客からある噂を聞きつけた。
その客はほろ酔いしながら、いみじくも言った。
「とある湖畔の別荘に最愛だと感じた人と、一定の手続きを踏んで行くと、誰にも邪魔されずに集団自殺出来るらしいのよ」
面映ゆい表情をしてヒロは尋ねた。
「それはどこの別荘で、どんな手続きを踏めば自殺出来るのですか?」
シャンパンを飲み、客が首を傾げ答える。
「そこが問題なのよ。私もネットとか開いて、それを調べようとしたのだけれども、そんな項目出ていないのよ。単なる都市伝説と言うか噂の類いだから、出ていないのかしら?」
逆に尋ねられ、ヒロは口をつぐみ、その話題は途切れた。
だが妙にその事柄が頭から離れず、自分なりにネット検索を繰り返し、その事例に類した項目を手当たり次第に探すが、一向に当たりが付かない。
試行錯誤を繰り返し、ヒロはネット検索の項目を湖畔、謎の手続きを踏む、集団自殺と入れ改めて検索してみた。
すると都心から百キロ程離れた、山林を背にした湖畔のとある別荘に少数項目ながらも当たりが付き、その奇妙とも言える集団自殺の手筈手続きを読んでヒロは眼を見開き精読して行った。
それは相関関係の無いパズルの組み合わせを完成させる手続きを踏まないと集団自殺には至れないと言う、窮めて矛盾した不条理な項目であり、ヒロはその相関関係の無い複雑に入り組んだパズルの組み合わせを、もどかしくも突き止めるべく頭を抱えながら熟読吟味して行った。