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敗北?と光

「はあ…」

舗装されてない地面むき出しの道をよたよた歩きながら、大きなため息をつく。もう何度目だろうか。


話は数時間前に遡る。

えんじぇるという名のDQNネームではあるがめっちゃ親切なおっさんに助けられた(らしい)俺は、記憶喪失であるという設定でおっさんに事情を説明することにした。いつまでもここにお世話になるわけにもいかない。

「あの、おじさん…。僕、気がついたらここに倒れていて。自分が何者なのか、なぜここにいるのかもわからないんです。」

「なんと、そうじゃったか…。記憶がないのか…。かわいそうに。見た目からして冒険者じゃったんじゃろうなぁ。であるならばまずはこの辺りで一番栄えているコロロの街へ行ってはどうか?あそこは冒険者のギルドがあるしのう。」

「冒険者のギルドで何かできるんですか?」

「ああ、それも説明せねばな。もしお前さんが冒険者じゃったのなら、ギルドへ登録してあるばずなんじゃ。そこで身元も判明するじゃろう。」

「分かりました。行ってみます。」

おっさんは見ず知らずの俺なのに旅に役立てるようにと5000ナピンをくれた。マジおっさん良い人。

ちなみにナピンというのはこの世界の通貨単位だ。俺も100ナピン持っていたので、今は5100ナピンだ。

てか、最初の手持ち少なくね?だいたいどのネトゲでも1000くらいは持ってたんだけどな…。

「お世話になりました!本当にありがとうございました!」

おっさんにお礼を言い、意気揚々と出発した俺だったが…。


田舎道を歩いていると突然、

やせい の モンスター が あらわれた!

名前は分からなかったが、某国民的RPGに出てくるスライムみたいなやつだ。ただし色は赤。

こいつは戦闘の練習にちょうどいい、ボコるか!と戦いを挑んだ。

とりあえず先手必勝!

左ストレートをお見舞いする。地面をけって生まれたエネルギーが、腰、胸、腕と通り増幅され、それにより加速された拳がスライムをぶちぬく……と思ったら、紙一重でかわされた。予想外の空振りで体勢が崩れた俺に、スライムの体当たりがヒットする。

「かはっ?!」

重い。もはや「たいあたり」ではなく「すてみタックル」並の威力があるんじゃなかろうか。バイクにはねられたかのごとく、俺の体が宙を舞う。

低い木の茂みに突っ込み、枝や刺が俺の皮膚を切り裂いた。鋭い痛みが走り、赤く血が滲む。

だが痛みに呻いてる暇はない。スライムがまたタックルしてきた。すんでのところでそれを回避するが、体勢をたて直すよりも早い追撃をもらって地面を転がる。

転がった勢いを利用して起き上がり顔を上げると、スライムが突っ込んでくるところだった。反射的に拳を出す。

スライムのタックルが俺の拳に命中した。と同時にそれは俺の右ジャブがスライムにヒットしたことも意味する。作用と反作用の関係。

俺とスライムは逆方向に吹き飛んだ。


俺は立ち上がろうとするが、足に力が入らない。もう限界のようだった。

「あー、死ぬのかな。死ぬ前にあんな事やこんな事はしておきたかったな…」

覚悟を決めたが、追撃はない。

逃げたのか、あるいは撃破したのかもしれない。助かった。

いやぁ、殺されるかと思ったよ…スライムに。

俺は少し休憩し、一刻も早く街へ着けるよう、急ぐことにした。


ここで冒頭に戻る。

とぼとぼ歩く俺の体には、モンスターとの戦闘でできた傷がたくさん残っていた。

けっこうグロいし、なによりも痛い。

このリアルな痛みこそ、ここが夢ではない何よりの証拠だろう。ほっぺたをつねるどころの痛みじゃないしな。


おそらく最弱であろうモンスターに半殺しにされたことと、ここが夢ではないと認めざるをえないことが二重の意味で俺を落ち込ませる。

そして、俺を落ち込ませる三重目の理由があった。

―ここはゲームですらないのかもしれない。おそらく現実なのだ―


でなければこの痛み、出血はあり得ない。

雑魚モンスターでこれなら、ボスモンスターの攻撃を食らったら死ぬぞ。仮に肉体的に死ななくとも精神的に。少なくとも痛みが現実と同様な限り、ここは現実と捉えるべきだ。でなければ精神的に死ぬ。廃人になる。

ま、元からネトゲ廃人だけどね!なんて冗談は今は言える余裕が無い。一歩間違えれば死ぬ世界。それは、今まで生と死をはっきりと考えることなくぼんやりと生きてきた俺には刺激が強すぎた。


それにしても満身創痍での徒歩はきつい。木陰を見つけ座る。が、

「痛っ!」

何か硬いものを踏んだ。しかも尾骶骨の骨と皮しかない部分で、だ。

今日は踏んだり蹴ったりだな。

慌てて立ち上がるが、何もない。ついで自分を見ると、腰から懐中時計のようなものがブラブラしていた。おそらくコレを踏んだのだろう。

確かモーブといったか?

いじくり回していると、懐中時計なら時計がある部分が、黒かったのだがいきなり光って何かを表示した。

Lv1 Leonhardt 無職

HP 4/20

MP 5/5

ATK 10

MATK 10

DEF 10

MDEF 10

SPD 10

AVD 10

HIT 10

STR 1、INT 1、VIT 1、MEN 1,AGI 1、DEX 1、CRI 1

未取得経験値 2  取得する

ステータスポイント 0

スキルポイント 0

特殊スキル再設定


なんだこれ?ステータス画面だよな。

俺は恐る恐る「未取得経験値取得ボタン」をタップする。反応した。モーブは懐中時計というよりはスマホだな。

タップすると、未取得経験値が0になると同時に、ステータスポイントが2、スキルポイントが1になり、体が暖かい光で包まれる。

その光が消えたと思ったら、体中の傷が消えていた。

おそらくレベルが上ったのだろう。レベルアップと同時にHP、MP全回復は、ネトゲでもお馴染みだ。


さてと、ここからステータスを操作できるなら、早く操作してしまうのがいいだろう。

今、俺は12ポイントのステータスポイントを所有している。スキル再設定のスキルは外すわけにはいかないから、実質7ポイントだ。

まずはどれに振るか。

早く強くなって、やられる危険をなくすためには攻撃力か体力か敏捷性か…。

この世界が現実=極限にデスペナルティーが高い世界であることを考えると、敏捷性ではないだろうか。

一撃で倒せるのなら攻撃力でもいいだろう。だがスライムとの戦闘の時のように、避けられたら意味が無い。がぶ飲みする回復薬があるわけでもヒーラーがいるわけでもないので、体力も論外だ。

よし、これで育成するステータスは決まった。

あとは経験値倍増スキルをつけるかステータスにポイントをまわすかだ。短期的に見れば、ステータスにまわした方が死ににくくなる。だが長期的に見れば、経験値が倍になった方が早く強くなるのだから死ににくくなるのだろう。あれだな、レベルをxとして、x≦αではステータス≧経験値倍増になり、x≧αでステータス≦経験値倍増になるαを見つけたらいいんだよな。まあ俺は計算苦手だからやらんけど。

ともかくこんな初期ではステータスの恩恵の方が大きいのではないだろうか?

よし、経験値倍増は外して、AGIに7ポイント振ることにしよう。


再設定し終えると、スキルポイントが6になっていた。特殊スキルはスキルポイントも5使うのか。あ、どうでもいいけど無職ってひどくね?


歩いているとコロロの街に着いた。

街とは言っても村のような感じだ。地面は舗装されておらず、建物も木造平屋だ。この世界はそんなに技術が発達していないのかもしれない。

街を歩いている人は人じゃなかった。なんというか、俺達みたいな「人間」ではない種族もいる。パッと見ただけでエルフやドワーフ、獣人らしき人が確認できた。てかあの獣人さんネコミミなんだよなぁ。いいなぁネコミミカワイイ…ハアハア。

ぷらぷらと歩いていると、武具屋らしき店を見つけたので入ってみる。

中には多くの剣や盾、鎧が置かれていた。金属や革の加工技術はちゃんとあるらしい。

「すみません、剣と盾を買いたいのですが…」

店主らしきおじさんに話しかける。

「おう、いらっしゃい。どの程度のやつが欲しい?」

「一番安いのは?」

「どっちも80ナピンからあるぜ」

けっこう安いらしい。いや、ナピンが円のような単位でなくドルのようなものなのかもしれない。80円なら安いが80ドルならそれなりだ。もしそうならあの親切なおっさんはかなりの大金をくれたことになる。マジ神。天使だけど。

「予算は5000ある」

「なるほど、それならかなりいい装備が買えるぜ」

店主が色々と出してくれた中から、俺は飛燕のロングソード改(ATK+50、AGI+15、DEX+15、CRI+15)、遊撃の衣(DEF+10、AGI+5、DEX+1)を購入した。代金は占めて5045ナピンである。そのうち4600ナピンはロングソード代なので、多分めっちゃ良い品なのだろう。

「ありがとさん」

店主の声を聞きながら店を出る。


さてと、俺の目的は済んだ。大きな街では武器が買えると思っていたからな。エンジェルのおっさんには悪いが、ギルドは行かなくてもいいのだ。

いや、おっさんの意図とは違うがやっぱ行くべきなのか?おっさんの話によれば冒険者ギルドと言うのは冒険者の相互扶助を目的とした組織らしい。もちろん今は登録をしてあるはずはないので身元照合はできるはずはないが、新たに登録しておけば冒険に役立つのではないかと思う。

「すみません、冒険者ギルドはどこですか?」

「ああ、それならこの先の角を右折ですにゃ」

道を聞いたネコミミ娘の可愛さにハアハアしながら俺はギルドへ向かった。


 冒険者ギルドは街の中でもひときわ大きな建物だった。ま、木造平屋だけど。それでもこの街では1番立派な建物だし、酒場も併設してあるせいか活気もある。

「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

受付嬢に話しかける。

「おっけー!じゃあこの紙に名前を書いて、モーブをこちらにかしてー!」

やけにフレンドリーだな、このお姉さん。てか可愛い。ウヘヘ…。

パタパタパタ…。モーブを台のようなものにセットして、お姉さんがキーボードのようなものを打ち込んでいく。

その前には画面のようなものがあって、へぇ、

「パソコンまであるのか…」

「ん?」

「あ、いや、なんでもないっす!」

危ない危ない、ついつぶやいてしまった。パソコンなんて単語、この世界では意味不明だろう。変なことをつぶやいて変態扱いされるのは勘弁だ。

「はーい!登録終わりっ!歓迎するよ、レオンくん」

登録が終わったようだ。


「きみは登録したばかりだから10級冒険者ね!」

受付嬢が基本事項を説明する。

冒険者の仕事は、ギルドに貼りだされる依頼(クエスト)をこなすことだ。報酬金が支払われ、またランクポイントというポイントが与えられる。だがクエストにも難易度によって制限があり、それは冒険者のランクによって決まる。これは無謀なクエストに挑んで命を落とすのを防ぐのが目的らしい。

ランクは初心者の10級から一流の1級まで。冒険者は自分が受けられるクエストをこなしながら、ランクポイントをため、一定になると昇級試験が受けられる。

また、ランク上位者は例外もあるが、冒険者には決まった給料はなく、こなさなければいけない義務もない。普通の冒険者はクエストの報酬とモンスターが落とすアイテムの売却で生計を立てているそうだ。

モンスター討伐は、夜間は強力なモンスターが徘徊することもあるため昼間に行われることが多い。

「アイテムの買い取りはギルドでやっているからね~」

お姉さんの笑顔が眩しい。


何はともあれこれでこの世界で餓死せずにすみそうだ。ギルドでついでに聞いたところ、街の宿は食事抜きで一泊3ナピンほどかかるらしい。だからそれ+αの額を毎日稼ぐ限り、一応の生活はしていけるのだ。

俺はスライムを探すために街に外に出る。とりあえずどの程度でドロップ品が売れるのかを確認するためで、決して今朝の復讐などではない。ないったらない。

と、早速見つけだぜ!今度はスライム(仮)の色は青だった。種類が違うのか?ともかく油断はしない。運が悪けりゃ赤のやつより強いかもしれない。

ロングソードを抜いて駆ける。俺に気づいたスライムが触手状にした体の一部でムチのように攻撃してくるが、切り刻む。そのままスライムの横を駆け抜ける瞬間、剣を一閃し一撃を浴びせた。会心の一撃だと思ったが、油断はない。さらに一撃を浴びせるべく振り向いた。

が、俺が見たのは「ボフンッ」と煙を立てて消えるスライムと、転がる残留品。

…一撃かよ、マジか。

青いグミのようなドロップアイテムをポケットにしまう。普段のネトゲの感覚で狩りに出てしまったが、ここは現実(かも知れない世界)だった。当然メニューから呼び出すアイテムボックスなんて便利機能はなく、またアイテムの名前も見ただけでは分からない。

そこら辺、抜けてるよなぁと落ち込みつつ、せめてポケットがいっぱいになるまでは狩ろうと思い歩き出した。


あれー?!

俺はクビをひねる。さっきからいろんな色のスライムを倒しまくっているのだが、すべて一撃なのだ。最初の戦いも一撃と言えば一撃だったが、あれは反作用によるまぐれみたいなもんだし、そもそもあの時とは違って空振ってないし相手の攻撃もすべて見切れている。俺つえーじゃん!いや、あの時に比べて攻撃力は6倍だしステータス的にはレベル+18になっているのだから当然か?まあとりあえずこれで死因がスライムなどという、超スーパーウルトラ屈辱的な死に方をする危険性だけはなくなった。

などとのんびりと考えながら俺は一歩右に動き、剣を左に向ける。それだけで飛び込んできたう○こ色のスライムが真っ二つになった。はい、簡単なお仕事です。

残った茶色のグミモドキを拾うと、そろそろポケットがいっぱいになりそうだった。俺は街へ戻ることにする。

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