プロローグ
所詮、人間はクソだ。
表面では何と言っていても嘘偽りだらけで、腹の中ではどうやって他人を出し抜くかしか考えていない。信じるべきではないし信じられない。俺はそれを大きな代償を払って思い知らされた。
…本当、クソだ。
以前の俺は愚直なまでに「性善説」というものを信じていた。人間の本質は善人である、というあれだ。
多少性格がひねくれている奴に出会っても、「あいつは性格がああなるだけの理由があるのだろう」と、「本心から他人を不幸にしてやろうと思っているわけではない」と、そう思っていた。
幸か不幸か、今まではその程度の「悪人」しか周りにいなかったのだ。
だが大学生になった俺を待っていたのは、冷酷な現実だった。無駄に小賢しい奴らは高校生までのような暴力や生ぬるい陰湿さではない、徹底的な「情報戦」によって俺を陥れ、幸せと居場所を奪い、叩き潰した。明確な悪意が自分に向けられているとはつゆ知らなかったのんきな俺に為す術はなかったのだ。
それ以来、俺は他人を信じることをやめた。
とは言っても完全な1人は寂しい。にんげんだもの。
そんな俺が出会ったのがネトゲだった。
孤独は嫌だ。でも他人は信じられない。
ならば偽りの世界で生きてしまえばいい。初めから期待などしなければ傷つくこともない。そうして俺はどっぷりとネトゲにはまっていった。
仮想世界だが、仮装世界とも書けるネトゲは、皆がアバターを自分の分身として操るため、「自分の好きな自分」でいられる。全員が演じているのだ。性格どころか性別さえ分からないから、信じるだけ無駄。リアルでの他人との距離感とは違う、ネトゲ特有の距離感での人との付き合いは、俺にとっては楽だった。
だから今日もまた旅立つ。居心地の良い、あの世界へ。