序章A´
内容は序章Aと同一です。
構成上再掲の必要がありましたので一話として投稿致しますが、ここまで一気読みした方や序章Aの内容を覚えている方は読み飛ばしても大丈夫だと思います。
土竜。
五色竜の中で最も頑丈で最も愚鈍な竜。
岩の体躯を破壊するのは困難を伴うが、水竜の様な魔術耐性は無く、風竜の様に魔術に長けている訳でも無い筈の、土竜。
その土竜にこちらの魔術が通用せず、土竜の魔術は全く防げない。
エルフ族の魔術師、ローラの上半身が宙を舞った。
人族の勇者、ユウキの魔法剣はその堅牢な体躯を叩く事無く折れた。
教会の高位神官、マルギルは呆然とその光景を見ていた。
獣人族の戦士、ウラは骨の砕けた右手を庇って飛び下がる。
「フハハァ! 魔力増幅器でェ! 強化されたァ! 我の魔術の前にはァ! 全てが無駄ァ!」
土竜が咆哮する。
竜の言語を理解するエルフ族以外で、その咆哮とただの咆哮との違いを認識出来る者は居ない。
殆どの種族はギャーとかガァーとかグァーといった類の擬音でしか聞き取れない。
だがもし、その後の言葉をマルギルが理解していたとしたら、彼は驚愕に目を見開いただろう。
土竜は竜の言語でこう続けたのだ。
「砂岩の板にィ! ミスリル銀を薄く筋の様に吹き付けてェ! 結晶石を鈍鉄で固定した板切れがァ! これ程の力を我に与えるとはァ! これで我は魔王をも超えた強者ァ!」
異世界の日本と呼ばれる国から不慮の事故で転移したマルギル――本名加納広海がそれを聞いていたのなら、工学部の首席だった彼ならばきっと電子基板を連想しただろう。
だが、その魔力増幅器を加納広海が眼にする事は無い。
何故なら。
「……精霊に捧ぐは我が命脈、望むは弾け飛べ、禁呪――」
上半身だけになっていたローラが、禁呪を唱える。
透視の魔眼を有するローラには最初から見えていた。
土竜の頭殻の内部に、ミスリル銀と結晶石で構成された小さな何かがある事を。
魔力が集積する。
通常の魔術の様な、体内に蓄積された魔力や空気中の魔力で発動する魔術とは全く異なる。
生命力を魔力に変換して発動する魔術。
土竜の増強された思考回路がそれの性質を見抜くより、発動が僅かに早かったのは僥倖だったのだろう。
全てを投げ打ったローラの上半身が砂になって飛び散り、発動した魔術は土竜の頭部を突き抜けた。
禁呪、隔世振追の法。
ここではない何処かへ、対象を追放する魔術。
ローラの頭程の大きさの不可視の球体が、土竜の頭部を貫通して、消えた。
球体の通過した跡は穴となって現れたが、その穴は土竜にとっては軽傷だ。
だが、それは決定的な一打となった。
「ふゆかぃ! えるふぅ! みなごろしぃ!」
再度咆哮する土竜に、高度な魔術を操る知性は無い。