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序章E

 その河沿いには観光客が居た。

 一年前までは何の名前も無かったその河はハツルガと呼ばれていた。

 河の底には黒い髪の様な物が流されている様に見える。

 東ユル自治区の調査により、黒い髪の様な物の平均幅は五メートルで長さは二キロに及ぶ事が確認されている。

 下流に流される事は無くその場に留まり、河に潜っても触れる事は出来ない。

 半年前に突如出現したそれは色々な経緯を経て最終的に観光資源となった。

 そうなったのは東ユル自治区長の手腕による所が大きい。

 ハツルガ沿いの観光特区から直線距離で五キロ程離れた森林地帯の外縁。

 鳥が不自然に近付かない一角。

 武装した十五人が、地上から見上げても葉に遮られて良く見えない様な高所に、一人を除いて右手の拳を腰の裏に添える特徴的な敬礼をして佇んでいた。

 その出で立ちは不思議な防具に身を包まれた奇異な物だった。

 頭部を完全に覆う兜は細い金属が絡み合う様にして形成されていた。

 側面には幅五センチ長さ十センチ程の板状の突起が形成されており、そこには幾つかの宝石が埋め込まれている。

 兜の基本的な色彩は周囲の樹木に紛れ易い多数色の線で構成されている。

 堅牢な兜とは対照的に、身体を保護するのは厚手の外套である。

 足先までを隠すその長い厚手の外套もまた、同様の色彩に覆われていた。

 武装らしきものは腰丈程までの複雑に捩れた棒のみ。

 それを持つ手は薄く皮膚に張り付くように密着する手袋で保護されている。

 十五人は腕よりも細い木の枝を足場にしてハツルガの方を向いている。

「この半年の間に活動は観測されておりません。安定的な不活性化状態かと思われます」

 一人が敬礼を崩さずにそう言った。

「闇と光は元より欠番扱いだ。放置はするが監視は続けろ」

 敬礼をしていない一人が重々しい空気を纏いながらそう言った。

「常時三名体制で監視致します」

 別の一人が敬礼を崩さず平坦な声でそう言うと、敬礼をしていない一人が鷹揚に頷いた。

「余剰人員は壊滅した四班と合流して雷の追尾と処分に充てる」

 こうなると水が潰れているのがありがたいなと、敬礼をしていない一人は誰にも聞こえない声で呟いた。

 その身体が姿勢を変える事無く空中後ろへと滑る。

 見えない枝の上を滑る様な、身体の動きを感じさせない移動法で暗い森の中へその姿が消えると、それに続いて十一人が同じ移動法で去って行った。

 残った三人は敬礼を崩すと手信号で簡潔に意思の疎通を行い、滑る様に移動して監視位置を少しだけ変えてからは微動だにしなかった。

 次の交代まで約二十時間。

 その間三人には眠る事も食事を摂る事も不用意に動く事も許されない。

 三人に感情の気配は感じられなかった。

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