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序章D

 幼い頃に、意味も無く石を収集した事がある者は多いのかも知れない。

 その基準は色だったり形だったり様々だ。

「きれいないしみつけたー」

 辺境の開拓地に生まれたラルもまた、そんな子供の一人である。

 腰に下げた袋に数多の石が収められている。

 しかしながら、ラルの収集基準は他の誰にも理解出来なかった。

「まるいのがいるのー」

 どんな石を集めているのかを周囲の子供や大人が問うと、ラルは決まってこう言った。

 そしてまるいのが何かと問われればまるいのと答える。

 色も形も様々であり、少量ながら骨片や木陶器の破片まで含まれる。

 ラルが石の収集を始めたのは三歳の頃であるが、働き手となった十二歳の時点も収集は続いていた。

 その頃になるとラルは石の選別を始める様になる。

「これは一つしか居ないから」

 増え続ける石の削減を両親から言い渡されたラルは、捨てた石の選定基準を問われてそう言った。

「丸いんだ。自分でもそれが何か良く分からないんだけど、石とかの中に居る」

 まるいの、の説明は十二歳になっても意味不明のままだった。

 ラルはその収集癖を持ったまま二十歳となる。

 変人である事は誰もが疑わなかったが、知的であるとも言われていた。

 帝国から集落単位で支給される開発補助金の管理運用を任される程度には優秀であった。

「おい、ラル!今日変な石を見つけてな!」

 畑作業の合間の休憩中、友人のスカエがそんな事を言いながら一つの石を見せた。

 そしてスカエはその事を色々な意味で後悔する事になる。

「へえ、どんな石だい?」

 ラルはどんな石にも興味を示す訳では無い。興味の無い石は言葉の通り路傍の石として扱う。

「おう、これだよ!」

 スカエが手にしていた石は、それは確かに不思議な石だった。

「重なっている?」

 その石は見るからに材質の違う二つの石が、溶けあう様に一つの石を形成していた。

 どちらかがどちらかに埋まっているのか、或いは溶けて融合しているのか。

 ラルはひょいとその石を手に取る。

「そうなんだよ!珍しいだろ!」

 ラルが重なっていると言ったのは、石自体の事では無い。

「何か、苦しそうだな」

 ラルが重なっていると言ったのは、石の中に居る存在の事である。

 数は二つ。一つの石に多数存在する事は良くあるが、二つの球体が重なったその状態は初めて見る物だった。

「は?何がだ?」

 スカエは苦しそうと言われても何の事か分からない。

 ラルはスカエの言葉等聞こえておらず、珍しい存在に興味津々で、石を眉間の前に持って来るとじっと観察する。

 観察して、何を思ったのか石を左右に引っ張った。

 石は呆気無く割れた。

 その際に発生した高い音を聞いたのはラルとスカエだけだった。

 同時に発生した閃光は、集落の多くの住民が目撃した。

 衝撃波や熱風が発生せず氷漬けにもならなかったのははただの偶然だ。

 ラルとスカエは咄嗟に目を庇い、ラルだけは声を聞いた。

[助かった、申し訳ない、補填しよう]

 言葉の意味はすぐには分からなかったが、ラルはその意味を考える前に激痛に襲われた。

 尋常で無い叫び声を発するラルに、住民が集まって来た。

 ラルの残り百年程の人生を大きく変える事件が起きたその日、ラルの右目は置き換えられた。

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