表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/42

序章B

(あ、死んだ私)

 ジルは直感的にそう感じると同時に全力で横に跳んだ。

 受け身を取る事も考えずに無様に跳んだ。

 当然の結果として体中を地面に削られながら転がる。

 痛みに顔を顰めて起き上がると、左腕は無かった。

「うぅ…」

 呻き声は一瞬。

 焼ける様な痛みは忘れる事にする。

 素早く周りを見ると、下半身が一つと左半身が一つ。

 地面が軽く抉られ、姿が見えないのが三人。

 自分達が襲い掛かった背の高い男か女か分からない旅人は、悠然と佇んでいた。

 その視線はジルを捉えていない。

 視線は川向うに向いていた。

(本隊が居る所?)

 旅人の注意が逸れている隙に麻紐で強引に止血を済ませたジルは、川向うから来る筈のモノに気が付いて慌てて飛び退く。

 数条の雷撃がジルの居た場所を焦がす。

 宵闇盗賊団の本隊からの雷撃だ。

 襲撃した人間から使えそうな者は殺さずに奴隷に様に使い、逃亡者は殺される。

 ジルを襲った宵闇盗賊団とはそう言った集団だった。

 襲撃に失敗したジルは用済みである。

(くっそ、腕が無いせいでバランスが…!)

 飛び退いたジルはまたしても無様に地面に身体を打ち付ける。

 だが、そんな事に気を取られている暇は無い。

 腕の切断面から血が流れる嫌な感触を振り解く様に、もう一度跳ぶ。

 しかし、先程より飛距離の短い跳躍では追撃を避けきれない。

 雷撃が背中を掠める。

 即死は免れたものの、身体の制御が失われた。

 気持ち悪さと嫌な汗が全身から噴き出る。

 それでも、ジルは悪足掻きを続ける。

 身体を攀じる様にしてその場から少しでも離れようとする。

 しかし身体は殆ど動かない。

 死の恐怖に怯えながら必死になって動こうとするジルは、辛うじて自由に動かせる視線を川向うに向ける。

 性別不詳の旅人がジルの視線を遮る様にそこに居た。

 旅人の後ろで雷撃が弾け閃光が連続して瞬く。

 まるでジルの盾になるかの様な位置に性別不肖の旅人は居た。

 不意に、旅人がジルの方を向いた。

[何故死なない?]

 旅人はそう言った。

 そう言った様に、ジルは感じた。

 次の瞬間、ジルは別の場所に居た。

 先程まで居た川沿いの道では無い。暗い、どこかに。

 冷たい空気が火照っていた身体を包んでいた。

 遠くで水音がする。

 取り敢えず当面の危機は無くなったと思うと同時に、ジルの意識は冷たい空気に溶ける様に散って行った。

 目の前に居る性別不詳の旅人に得体の知れない恐怖を抱きながら。

[お前は明らかに外れ値だ]

 散り行く意識の中、そんな言葉を聞いた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ