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媛君が希うこと  作者: 佳耶
第二章 太陽の国
17/52

8

 日の出前に以緒よりつぐは退室し、時間まで銀朱ぎんしゅは寝台でまどろむことにした。たっぷりと眠ったせいか、または気持ちよく目覚めたせいか眠れる気配はなかったが、それでもうとうととしていたようで、気がつくと寝台のかたわらで人影が動いていた。

「おはようございます。気分はどうですか?」

 いつもよりはじける笑顔に、銀朱は事情を察した。おそらく、洋は以緒と顔を合わせたのだろう。

「ええ、いいわ」

 そうですか、と洋は満足そうに笑った。寝台から降りるとすでに用意されていた盥で顔を洗い、身支度を調える。銀朱の髪を丁寧に梳りながら、洋がたずねた。

「ご朝食はどうしますか? 以緒から聞いていると思いますけど、鶏肉のスープを作ったんです」

「いただくわ。以緒もおいしかったって言っていたの」

「自分でもうまくできたなって思います」

 くすくすとふたり分の笑い声がさざめく。こうして笑うのも、ずいぶん懐かしかった。

「……迷惑をかけたわ」

 鏡の中の洋の瞳を、銀朱はまっすぐに見つめた。桐からはるばるヘリオスまでついてきてくれた侍女は彼女だけだ。

 銀朱は将来を考え残った方がいいと言ったが、洋は家族や故郷での生活を捨ててまで侍女の役目を選んだ。顔や態度には出さないが、相当な覚悟が必要だったはずだ。

「いいえ、迷惑だなんて。銀朱様が元気になってくださってよかったです」

「洋は体調はどうなの? 食事も口に合わないのではない?」

「そんなことないですよ。うちは両親がめずらしい物好きだったので、地方の名産品や菓子もよく家にありましたし、皇宮ほど徹底して薄味ってわけじゃなかったですから。こってりした物にも慣れてるんです」

「そうなの?」

玄燿げんようにはいろいろな物が集まりますからね。牛や羊が大好きな貴族もいるって聞いたことがありますよ」

 洋の話す事実に、銀朱は絶句した。たしかに内陸の玄燿では魚よりも肉の方が手に入りやすく、銀朱の食卓にも肉が上る方が多かったが、それでも味付けは淡泊で繊細な料理ばかりだった。

 神の住まう天関いわくらがある皇宮は、穢れからなるべく遠ざけなければいけない。匂いの強い食材は神が嫌うので、皇宮での扱いも自然と避けられる。ただびとである銀朱や宗室の者は肉を食べるが、神である皇太子は魚も口にしなかった。彼が食べるのは、ひとえに穀物か果物程度で、しかもごく少量だ。

「……わたし、貴族は全員が皇宮と同じ食事をしていると信じていたわ」

「さすがに参朝する前は匂いの強い物は避けますけどね。でも、ここの食事がつらいっていうのもわかりますよ。ちょっと味付けがしつこいっていうか、もたれる味ですよね」

 何となく安心感を抱きながら、銀朱は同意した。自分だけ食事に苦労していたのだとしたら恥ずかしい。

 案内された食堂は少人数での食事に向いた広さで、銀朱ひとりで使用してもそら寒さも手狭さも感じないちょうどよさだった。食卓には食器類がすでに並んでおり、席に着くとすぐに湯気を立てた熱々のスープが出てくる。匂いからして銀朱の食欲を誘ったが、味も申し分のない出来だった。

「おいしいわ」

「よかったです。まだたくさんありますから、どんどん食べてください」

 洋の声は弾んでいた。銀朱自身も食べられることに安堵しながら、胃に負担をかけないようにゆっくりと食事を進める。

 やわらかく癖のないパン一切れとスープ半分で限界だったが、食べることに苦痛を伴わないことがこれほど楽なのだと初めて気づかされた。気分が悪くなる様子もなく、スープのおかげか身体の芯から温かい。

 部屋へ戻ると、銀朱は古語で書かれた方の聖典を開き、ジゼルの手ほどきを受けながら読み進めることにした。ヘリオスへ入ってから忙殺されてきたので、なかなか手に取る時間が持てなかったのだ。

 顔色の良くなった銀朱の頼みを、ジゼルは喜んで引き受けた。

「銀朱様はとても勤勉でございますね。古語の聖典まで熱心に読む者は、貴族の中にもなかなかおりません」

「そうなの?」

「生活していく上では、現代語の方で充分でございますから」

 では銀朱に聖典を与えた使者は、よほど熱心な信徒だっただろうか――それとも同じ内容で現代語と古語の両方がそろう聖典を教科書にする利便性を理解してだったのか。見たところ使い込まれているようだったので、彼自身もよく読んでいたのだろう。

「比較するとなかなか興味深いと思うわ。表現や解釈が少しずつちがうもの」

 古語特有の言い回しというのだろうか、現代語に翻訳する時点で変化した部分が散見される。簡略化もされているようで、省略された挿話もいくつかあった。

「聖典にご興味がおありですか?」

 ジゼルの問いに、銀朱はええ、とうなずいた。

「桐では女神のことは禁忌だから……。ここで生活するからには、詳しく知っておきたいの」

「それでしたら、エセルバード殿下にお伝えすれば、聖職者の方にお話をうかがう機会が作れるかもしれません。大聖堂には高名な方々がお集まりですから、きっと興味深いお話をお聞かせくださいます」

 聖職者から話を聞くという発想は、銀朱にはなかった。しかし言われてみればその方が効率はいいだろう。

 そもそも女神の子孫である国王は宗教上でも頂点に――つまり総大司教の地位も兼任している。エセルバードが話を通してくれれば、異教の銀朱でも名高い聖職者に接触できるかもしれない。

 訪問者を告げる声に、銀朱は顔を上げた。廊下へ続く扉から現れたのはカリンだった。

「失礼いたします。お加減はいかがですか?」

 使用人から話は聞いていたのだろう。カリンは銀朱がジゼルと会話していても、特に驚かなかった。

「だいぶいいわ」

「そうですか」

 騎士の表情に安心と喜びが浮かぶ。

「お取り込み中に大変申し訳ありませんが、殿下が銀朱様にお会いしたいとのことで、ご様子をうかがいに参りました。ですが銀朱様のご体調が第一ですので、もし優れないようでしたらご遠慮なく仰ってください」

 ジゼルへ視線を向けると、彼女はやわらかい笑みで応えた。聖典の続きを読めないのは残念だが、エセルバードの誘いを断るわけにはいかないだろう。

「わかったわ。かまわないと伝えてちょうだい」

「かしこまりました。では、一時間ほど経ちましたら改めてうかがいます」

 カリンが退室すると、銀朱はジゼルや洋とともに衣装選びへと移った。王宮から持ってきた衣装の中から淡黄色の物を選び身支度を済ませた頃、エセルバードが部屋を訪ねてきた。整った顔にはあいかわらずの笑みがある。

「急にすまないね。調子はどうかな?」

「だいぶよくなったわ」

「それはよかった。昨夜は顔を見られなかったから心配していたんだ」

「……今朝まで眠っていたの」

 銀朱はわずかに視線をそらした。何となく気恥ずかしかったのだ。

「聞いているよ。朝食も食べられたようだね」

 ええ、とうなずき、銀朱は以緒との会話を思い出した。礼を言った方がいいだろうかと考えあぐねているうちに、エセルバードが話を続ける。

「よかったら、庭でお茶をしないかい? 今日は天気もよくて風が少ないし、庭園の花が綺麗に咲いているんだ。帰る前に銀朱にもぜひ見てもらいたくてね。どうかな?」

 銀朱は窓辺へと視線を移した。ゆがみの少ないガラスからは夏の陽射しがこぼれ、透明な壁の向こうに目の覚めるような青空が続いている。銀朱の体調を慮ってか窓は開けられていないが、きっと気持ちのいい風が吹いている気がした。

「ええ。いいわ」

 同意すると、エセルバードが手を差し出した。めずらしく手套をしていない。

「では、行こうか」

 差し出された手を取り、銀朱は椅子から立ち上がった。




 建物の周囲に広がる野原は、すべてが庭と呼ばれる敷地内だった。エセルバードによると、ゆるく続く丘の向こうに見える森さえも庭の一部らしい。時期になれば狩りに出かけると言う。

 館の近辺は庭師の手が入っており、剪定の行き届いた生け垣の合間で無数の花々が咲き乱れている。赤に黄色、紫や白など、色とりどりの花の名前は銀朱にはわからなかったが、夏風にそよめく様子に心が和まされる。国境からアストルクスまでの道中に眺めた、のどかな田園風景を思い出させた。

 エセルバードに導かれて庭を進むと、わずかに高くなった場所にレンガ造りの四阿が設けてあった。人が四人も入ればいっぱいになってしまうほどの広さで、中央には机が設置してある。開放されたガラス戸から中へ入り振り返ると、庭全体が見渡せる絶好の場所だった。

 椅子に座り、銀朱は無言で庭を眺めた。ようやく血の気が通い始めた頬を撫でる風が気持ちいい。

 そういえば、王宮に庭園はあっただろうか――当然ながらここより広大で立派なものがあるだろうが、銀朱はその存在を知らない。この庭園も森も、銀朱の部屋から臨める位置にあったが、エセルバードから話を聞くまでついに気づかなかった。

 よほど余裕がなかったのだろう。さきほど部屋から青空を見たとき、寝ぼけていた意識が、はっと冴えたような感覚に襲われたのだ。閉じかけていた帳が開放された気がした。

「気に入ったかな?」

 エセルバードの問いに、銀朱は素直にあごを引いた。

「ええ。素敵なところだわ」

 周囲には騎士や使用人の影しかなく、聞こえるのは小鳥の軽やかなさえずりだけだ。穏やかな空間を壊すのも忍びなくて、銀朱は口を閉ざしたまま風景を愛でた。

 桐の皇宮には、これほど広い庭はなかった。ほとんど皇宮から出たことのない銀朱からしてみれば、庭を散策することさえ未知の経験である。へやから箱庭を眺めて生活するばかりだったが、こうして外に出てゆっくりと過ごすのもなかなかいい。ヘリオスの文化で、初めて好ましいと思えるものだった。

 四阿に甘い香りが紛れこみ、銀朱は視線を戻した。いつの間に運んできたのだろう。机の上には茶の準備が整っており、正面に腰を下ろしたエセルバードはすでに手に受け皿とカップを持っている。

「冷めないうちに飲んだ方がいいよ」

 さいわい紅茶はまだあたたかかった。甘い物が欲しかったので、ごく少量だけ砂糖を加える。茶葉に果物で香りづけしてあったが、今日は胸焼けを起こすことはなかった。ほのかな甘さが銀朱に安らぎを与える。

「……ここは、王族の屋敷なの?」

 昨日抱いた疑問を思い出し、銀朱は紅茶を堪能するエセルバードへ問いかけた。彼は新緑の双眸をこちらへ向け、優美な動作でカップを置くと、形良いくちびるに笑みを咲かせた。

「ここは、僕が陛下から賜った屋敷だよ。元は王族所有のものだけれどね」

「……あなたの領地ということ?」

「いや、所領は他にある。ここは屋敷と敷地だけで、土地はないんだ」

 成人した王族は、それぞれ所領を有していることが多い。しかし実際にその土地を王族が治めることはほとんどなく、名代が統治していると銀朱は教えられた。王太子候補であるエセルバードが、王都から離れた所領へ足を運んで領主の仕事をするのは困難だからだ。

「十七ぐらいの時だったかな。陛下が誕生日に何が欲しいかと仰ったから、ひとつ屋敷が欲しいと言ったんだ。それで、ここをいただいた」

 銀朱はひそかに首を傾げた。なぜエセルバードはわざわざ屋敷だけを欲しがったのだろう。王宮の自室だけでは満足できなかったのだろうか。

「王宮は堅苦しいからねぇ。その点、ここは自由気ままに過ごせる」

 銀朱の質問に、エセルバードはそう答えた。

「あそこは常に人の目がある。特に僕は王太子候補として選出者のお目に叶うよう礼儀正しくしていないとならないから、肩が凝ってしまうんだ。けれどここは全員が僕の使用人だから、多少奔放に振る舞っても問題ないんだよ」

「ここの使用人は、あなたが雇っているの?」

「そう。彼らは国に仕えているわけではなく、僕がこの屋敷の使用人として雇っているんだ。ひとつの家を回すだけの人数だけれど、自分で動かすのはなかなか面白いよ。王宮ではこうはいかない」

 銀朱はようやく納得した。この家の主人はエセルバードなのだ。

 だからいとも簡単に洋を厨房に入れて料理人に口を挟むことができるし、銀朱の食事の献立も変えることができるのだ。いくら王都から離れていても、主人が国王ならば難しい。

 食器を机に置き、銀朱は視線を落とした。漆黒のまつげが目元に影を落とす。

「……ありがとう。迷惑をかけたわ」

「何のことかな?」

「わたしのために、ここへ来たのでしょう?」

 エセルバードの返事を憎らしく思いつつ、銀朱は問い返した。以緒の言うとおり、今は王宮を離れたくないはずだ。礼ぐらい言わなければあまりにも不躾だ。

「君が気に病む必要はないよ。婚約者のためなら当然だ」

 銀朱の眉がわずかにひそめられる。黙りこくっていると、エセルバードから話しかけてきた。

「もしかして、怒っているのかな?」

 上目遣いに様子をうかがうと、翠緑の視線とぶつかった。この目は苦手だ――無意識に相手より優位に立つ目だ。

「茶会の件なら申し訳なかったと思っている。君の心労を増やさないために黙っていたのだけれど、返って負担になってしまったね」

 本当にそれだけの理由だろうか――どうしても銀朱はエセルバードの言葉の裏を探ってしまう。彼が銀朱を利用するのは立場上当然だし、不満も覚えない。ただ、警戒せずにはいられないのだ。

「……怒っていないわ。驚いたけれど」

 銀朱が思っていた以上に声は低く響いた。レンガの壁に吸いこまれると、かわりに小鳥のさえずりが沈黙を彩る。

 一呼吸の間を置いて、エセルバードはゆったりと足を組んだ。嫌な間だと銀朱は思った。

「僕は、君と仲良くやりたいのだけれどなぁ」

 銀朱の眉間のしわが深くなる。それを返事と取ったらしく、彼は言葉を続けた。

「国同士の婚姻に個人の感情を持ち出すべきではないけれど、夫婦になるからにはそれなりにうまくやっていきたいと僕は考えているよ。伴侶として君を尊重するし、害意から守るつもりもある。君を妃にする利点も欠点も充分理解した上で、僕は君を迎え入れたんだ」

「……何が言いたいのか、よくわからないわ」

「君はもっと自分の希望を言っていいんだよ」

 銀朱の漆黒の瞳が、ゆっくりと見開かれた。たとえば、とエセルバードが言う。

「この食べ物は口に合わない、体調が悪いから休みたい、とかね。努力するのは素晴らしいけれど、限界を弁えておかないとそれはただの自虐行為だ。それとも、桐では堪え忍ぶのが文化なのかな」

「……性格によると思うわ」

「なるほど。けれど身体を壊しては意味がない。自分を過大評価しているだけだ」

 銀朱は悔しさにくちびるを噛んだ。

 エセルバードの言うとおりだ。ヘリオスでの生活など問題ではないと考えていた。しかし実際には体調を崩して周囲に迷惑をかけているだけだ。自分の考えの甘さが情けない。

「その通りだわ……」

「責めているわけじゃないよ。君は強いし、おそらく賢いのだろうね。この国で自分の立場がいかに危ういのかよく理解しているからこそ、不平不満を漏らさない。ただ」

 エセルバードはほんの少し思案に耽り、ふたたび口を開いた。

「――そう、虚勢を張る必要はないんだ。少なくとも僕の前ではね。今のまま身構えていてはいつかは破綻するし、僕は銀朱の率直な意見を聞きたい」

 王子の声はいつも以上にやわらかく、耳心地がよかった。これも彼の策略なのだろうかと考え、銀朱はなぜだか無性に虚しさを覚えた。

 銀朱をここへ連れてきたのは、エセルバードなりの誠意の表れなのだろう。多忙な時期にも関わらず王宮を離れ、わざわざ時間を設けて銀朱と向きあおうとしている。それを疑うのはあまりにも愚かではないだろうか。

 肌を撫でる風に、四阿の外へと顔を向けた。太陽の光に満ちた庭園はあまりにも眩しく、銀朱の目に白く染みた。

「……桐は、もっと味付けが薄かったの」

 溢れる花を目に宿したまま、銀朱はぽつりと呟いた。

「香辛料も香草もほとんど使わなかったわ。だから、なかなか慣れないのよ」

 低い相づちに、銀朱は視線を正面へ戻した。そこには予想以上にやさしい笑みがあった。

「宮内府の担当に、銀朱の料理にはなるべく調味料を使わないように指示書を出してみよう。正餐会で君の料理だけ異なるものにするのは不可能だけれど、普段の食事は何を食べようと自由だからね。ただ、彼らにも矜持があるから保証はできない」

「わかっているわ。……それと、もうひとついいかしら」

「どうぞ?」

「女神について詳しく知りたいの。古語の聖典を読んでいるのだけれど、まだ文法が覚束ないし、限界があるわ。一度聖堂へ行って話を聞いてみたいの」

 へえ、とエセルバードが目を丸くした。どうやら銀朱が聖典の解読に苦労していることは知らなかったようだ。

「めずらしいね。そこまで手を出す人間は、ヘリオスでもなかなかいないよ」

「もともと古語の勉強のためにもらったものだけれど、現代語のものと比較していたら興味が湧いてきたの。……女神の信徒と認めてもらうためには、少しでも知識が必要でしょう?」

 彼は腕を組んで黙考したが、それはわずかの間だった。

「祭が終わって落ち着いたら、墓所の方へ行こうか。大聖堂よりあちらの方が静かだし、女神や始祖について喜んで語ってくれる人間がごまんといる。王宮へ戻ったら手紙を出しておくよ」

 ええ、とうなずき、銀朱は肩の力を抜いた。いつの間にか緊張していたらしい。

 同時にずっと胸の奥で痞えていたものが、ようやっと解けていく。ほろほろと溶けていくその塊の正体に思い至り、銀朱はうろたえずにはいられなかった。

(わたしはあのとき、安心したのだわ……)

 エセルバードが自分で銀朱を選んだと言ったとき、彼の本心を垣間見たと同時に、押しつけられたのではないと知って安心したのだ。少なくとも彼は銀朱の存在を疎んでいないのだと――警戒心とともに影でひそかに胸を撫で下ろしていた。その感情をようやく受け入れられたのだ。

「……ありがとう」

 自然と銀朱の口元に笑みが浮かぶ。花のつぼみが綻ぶような笑顔に、エセルバードは双眸を細めて応えた。

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