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媛君が希うこと  作者: 佳耶
第二章 太陽の国
13/52

4

 ――気持ち悪い。

 それが銀朱の第一の感想だった。

 きつく締め上げられた下着で肋骨から腹部まで息苦しく、まるで拷問そのものだ。半月に渡り身体を慣らすために着続けてきたが、今夜はジゼルが気合いを入れたのか銀朱の気のせいか、特に苦しい気がした。

 仕立て上がったドレスは淡い撫子色で、銀朱も見た目は気に入ったが、実際に着るとなると別だった。とにかく、大きく開いた胸元が恥ずかしくてたまらない。ジゼルは銀朱の肌の美しさを褒め称えたが、そんなことはどうでもよく、いかに強調された胸部を晒さずに済むかに神経を注いだ。

「よくお似合いです」

 無邪気に笑む以緒を、銀朱は恨めしげに睨んだ。

「以緒の馬鹿」

「どうかなさったのですか?」

「おまえだって着てみればわかるわよ」

 ジゼルによると、これでも襟ぐりは浅い方だそうだ。たしかに彼女のドレスは銀朱より開いており、目のやり場に困るほどである。盛装になるほど大胆に開くらしい。

 真珠と金剛石をあしらった首飾りは、羞恥に赤らむ銀朱の肌にひやりと凍みた。こみあげる熱に視界が歪む。まるで道化だ。

「銀朱様」

 銀朱のかたわらに跪いた以緒が、手套に包まれた彼女の手を取った。筋の浮いた両手は固く、剣を握り続けてきた人間のものだ。それでも触れられれば常にあたたかく、銀朱の不安をほぐすには充分だった。

「お役に立てず申し訳ありません。私に剣以外の能があればよかったのですが……」

 結局国王からの許可が下りないため、以緒は帯剣も銀朱に同行することも不可能だった。部屋に控えるのはエセルバードの厚意で認められているが、それもヘリオスの目が届く範囲に限られる。

 洋は銀朱個人の侍女として扱われ、すっかりジゼルとも打ち解けていたが、守人は武人であるために簡単に事が運ばないのだ。それが吉か凶か――少なくとも今の銀朱にとっては凶だった。

 だが、以緒にいつまでも甘えているわけにはいかない。銀朱は少し強がって笑みを作った。

「大丈夫よ。心配する必要はないわ」

 守人は薄いくちびるをわずかに開いたが、言葉を音にすることはなかった。蒼穹を閉じ込めた双眸が睫毛の下に隠され、流れるように一礼をすると銀朱のもとを離れていく。するとすぐに、控えの間から声がかけられ、エセルバードが入室した。

 彼は金糸がふんだんに使われた盛装で身を飾っていた。品のある華やかさがエセルバードに似合っている。

 シャンデリアからこぼれた光が彼の前髪で弾け、それを避けるように目が細められたかと思うと、口角を上げたくちびるから銀朱への賛辞が紡がれた。

「素晴らしいよ、銀朱。今夜は女神サユルでさえ君には敵わない」

 相変わらず返事に窮するので、銀朱は簡単に礼を言うだけに留めた。手を差し出され、警戒しながらもそれを借りて椅子から立ち上がる。さいわい今夜はくちづけられることもなく、教わったとおりに王子の腕に手を添えた。

「いってらっしゃいませ」

 以緒と洋が深く頭を下げる。この部屋を一歩出たら、ひとりで立たなければならないのだ。だが、これくらいで挫けていては何にもならない――本当に恐れなければならないものは、もっと他のところにあるはずだ。手を伸ばしたくなる衝動をぐっとこらえ、銀朱は腹に力をこめた。

 自室を後にして蝋燭の灯された廊下を渡り、西側に面した中央棟へ入る。単調な靴音に耳を傾けながら、銀朱は裾を踏まないよう慎重に歩を進めた。

「緊張する必要はないよ。君は堂々としていればいい」

 エセルバードの落ち着いた声が耳朶を打つ。ジゼルにもくりかえし言われたが、そう簡単にできれば苦労はしない。

「謁見の時の君は、凛として美しかった。同じようにすればいいだけだ。今夜は隣に僕もいるしね」

 銀朱はちらりとエセルバードを見上げた。

「……顔色が悪かったでしょう?」

「少し白粉が多かっただけだろう? 誰も気づいてはいないよ」

 世辞なのか事実なのか。エセルバードは滔々と続けた。

「君は桐の皇女として、媚びを売らずに気高く振る舞うだけでいい。皆、遠慮無い視線を向けてくるだろうけれど、犬にでも囲まれたと思って無視すればいいんだ」

「……犬は苦手だわ」

「では、雀あたりで。何か小さなものがさえずっているな、とね」

 大量の雀に囲まれるのも一種の恐怖だが、犬よりはいいだろう。小鳥ならば銀朱でも対処できる。

「雀に本気で腹を立てる人間はいない。自分は鳥よりはるかに勝っていると知っているからだ。足下でさえずっているものより、自分はもっと優れた存在であると――ただの人間とはちがい、桐の神の末裔であると尊大に振る舞うのが君の役目だ。さいわい、僕もわかりやすく始祖と同じ瞳を持っているし、これほど格好の組み合わせはない」

 エセルバードの言葉を咀嚼するにつれ、銀朱の目がゆるゆると見開かれた。

「……あなた、まさか」

「君は太陽で、僕は月。二つの神の血が混ざるんだ。ほかにふさわしい人間がいるかい?」

 王子は笑みを深めた。初めて銀朱は彼の素顔を見た気がした。

「僕が君を選んだ。他人が君を拒絶しようと、僕は歓迎しているよ」

 その一言はほろ苦い塊となって、溶けることなく銀朱の胸の底へ沈んだ。




 舞踏会が行われる大広間には、すでに大勢の人が集まっていた。天井から下がるシャンデリアには煌々と灯りが入れられ、壁一面を飾る絵画や彫刻をあたたかい光で照らし出す。アストルクスの夏は夜が短いため、空には金色の残照がうっすらと棚引いており、わずかに開けられた窓から快い夕風が涼をもたらした。

 玉座の間よりも内装は明るく豪奢である。バラ色の大理石で柱を模した装飾まであり、王宮内でも贅を凝らした造りだろう。上座には椅子が二脚用意されており、そこに国王夫妻が着くと全員が一礼をした。

 シグリッドの簡単な口上ののち、どこからともなく音楽隊が現れて演奏が始まる。整列して国王を迎えた人々はゆっくりと散開し、木々のさざめきのような話し声が室内を満たした。

「では、まずは両陛下の元へ行こうか」

 エセルバードの声に、銀朱は小さくうなずいた。シグリッドの方もこちらを見てにこにこと微笑んでいる。あきらかに銀朱たちの挨拶を待っている表情だ。

「陛下の話には適当に相づちを打っていればいいよ。王后陛下はおそらく不機嫌だろうけれど、気にしなくていい」

 銀朱はディアンの凍てついた瞳を思い出した。やはりあれは勘違いではなかったのだ。

「……なぜ?」

「陛下は黒髪がお気に召さないから」

 朝食の卵が嫌いだから、とでもいうような口ぶりで、エセルバードは答えた。

「これは好みの問題で君個人のことではないから、気にする必要はないよ」

 シルエラも黒髪を嫌っていた。ヘリオスではほとんど見かけないが、忌避の対象なのだろうか。たずねると、単なる個人の問題だね、と王子は言った。

「たしかにめずらしいけれど、女神でさえ黒髪だったと言われるのだから忌避される謂われはないよ。むしろ僕は好きだな」

 銀朱は美麗な笑みを軽く受け流した。玉座の正面へ寄り、ふたりそろって礼をする。

「ご機嫌麗しく、両陛下」

「やぁ、こんばんは。銀朱は久しぶりだね」

 シグリッドはうれしそうに両腕を広げた。国王にしては服装は質素で、玉座の間で拝謁した時の威厳はどこにもない。人集りに紛れこんでいても、銀朱には見つけられないだろう。

 一方、隣のディアンは銀朱をちらりと見ただけで、静かに視線をそらした。エセルバードの忠告どおり、気にせずにシグリッドに応じる。

「はい。ご無沙汰しており申し訳ございません」

「謝らなくていいよ。それにしても、ドレスもよく似合うねえ」

「ありがとうございます」

「こうして並んでいると、新婚夫婦みたいだ」

 目尻にしわを刻み、シグリッドは相好を崩した。

「仲良くやれているかな? 喧嘩はしていない?」

「ご心配なく、陛下。ご覧のとおり仲睦まじくやっております」

 会話は可能な限りエセルバードが引き受けると、事前に聞かされている。特に話を振られないかぎり銀朱が答える必要はなく、返答に窮したら指で腕をつつくように指示された。

「本当かなぁ。エセルバードはやさしいかい?」

 はい、と銀朱はうなずいた。今は銀朱自身が答えなければならない場面だ。

「とてもよくしてくださいます。お忙しい中、毎日必ずわたくしの様子をうかがいに来てくださいますし……」

「きっと、銀朱の顔を見たくてたまらないんだね。バードも意外とかわいいねえ」

 陛下、とエセルバードがうっすらと目を細めた。先ほどから浮かべている笑みがさらに深まる。

「あっ、意外とじゃなくていつものことだったね。君がかわいいのは生まれたときから変わらないからね? 心配しなくていいよ?」

 何を心配するのだろうかと銀朱は疑問を抱いたが、シグリッドにとっては息子に念を押さなければならないことらしい。途切れることなくつらつらと言葉を連ねる。

「最近は父上と呼んでくれないし、家族での晩餐の時も素っ気ないしで、エセルバードは変わってしまったのかと不安だったのだけれど、私の知っているかわいくてやさしい君のままだとわかって安心したよ。これでまた父上と呼んでくれると文句はないのだけれどなぁ」

「そうですか、陛下」

「君のそういうところも父上は大好きだよ」

 家族の会話がどういうものか銀朱は知らない。若干奇妙な気もするが、こういうものなのだろうか――口を挟む隙もないので、みずから会話に加わらなければこの場は過ごせるだろう。

 すると、陛下、と細く消え入りそうな声がかけられた。ディアンは少女のようにほっそりとした腕を夫に添え、目元に淡い影を落とした。

「気分が優れませんので、失礼させていただきますわ」

「ディアン、大丈夫かい?」

 紅の差されたディアンのくちびるが、わずかにほころぶ。

「お気遣いありがとうございます。部屋に戻ればすぐによくなります」

 椅子から立ち上がったディアンは小柄で、とても二十二になる息子の母親とは思えなかったが、豊かな金髪はたしかにエセルバードに受け継がれている。彼女が正面へ顔を巡らせると、耳に飾られた金剛石が光を弾いた。

「ゆっくり話せなくて残念だわ、バード。また今度、一人でわたくしの部屋に来てちょうだい。あなたの好きなものを用意しておくわ」

 銀朱は連れてくるな、という意味だろう。よほど嫌われているらしい。

「わかりました。どうぞお身体をお厭いください」

「ありがとう。素敵な夜をね」

 数人の女官を連れて、ディアンは大広間を退出した。その姿を認め、途端に室内の空気が乱れる。銀朱は背中に無数の視線が刺さるのを感じたが、ひたすら無視に徹した。

「すまないね。ディアンは君と会うのに緊張しているんだ。なにせ愛息子のお嫁さんだからね、母親としてはいろいろと複雑なんだろう」

 銀朱は軽く首を振った。

「いいえ。いらぬお気遣いをさせてしまいまして……」

「打ち解けるまで時間がかかるかもしれないけれど、けっして君を嫌っているわけじゃないんだ。わかってくれるかな」

「はい」

 ありがとう、とシグリッドが微笑んだ時だった。榛色の双眸が、ふと銀朱の背後へ向けられる。つられて振り返ると、深い臙脂の盛装をまとった青年がエセルバードの隣に並ぶところだった。

「失礼いたします。母上はいかがなさったのですか」

 その言葉で、銀朱は青年が誰なのかを悟った。十八歳になるエセルバードの同母弟だ。兄のように並外れた容姿ではないが、凛々しげな雰囲気は彼しか持たない。銀朱や以緒と同い年だが、彫りが深いせいかもう少し上に見えた。

「大丈夫だよ、ビセンテ。少し疲れが出たんだろうね」

 ビセンテと呼ばれた青年は、表情を硬くしたまま続けた。

「のちほどお部屋をうかがっても、ご迷惑ではないでしょうか」

「そうしてあげてくれるかな。きっと喜ぶよ」

 父親の言葉に、ビセンテはようやく強ばった目元から力を抜いた。家族は仲良くというシグリッドの方針は、意外にも行き届いているようだ。

 それから、彼はようやく銀朱たちの存在を思い出したらしい。エセルバードに対し慇懃に頭を下げる。

「挨拶が遅れて申し訳ありません、兄上」

「いや、陛下のご容態が気になるのは当然だ」

 エセルバードの視線を感じ、銀朱はビセンテと向きあった。振る舞いだけではなく、顔立ちからも真面目な印象を受ける。

「紹介しよう。我が麗しき婚約者だ」

「寿春皇女銀朱と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 エセルバードの言葉に不満を覚えながらも、銀朱は冷静に名乗った。

「ビセンテ・アウィシュ・ヘリオスと申します。お目にかかれ光栄です」

 改めて視線が交わると、ビセンテは母譲りの碧眼を翳らせ、わずかに眉を寄せた。やはり思うところがあるのだろう――自然を装い、銀朱はあごを引いて目を伏せる。

「ビセンテ。銀朱は君の義姉上になるのだからね。仲良くするんだよ?」

 シグリッドが口を挟むとビセンテは、はい、とうなずいた。

「……先日の桐の衣装も見事でしたが、今夜のドレスもよくお似合いです」

 思わぬ賛辞に銀朱は耳を疑った。特に感情が籠もっていたわけではないが、よもやビセンテの口から聞くとは想像もしていなかった。

「……ありがとうございます」

 形式ばかりの礼を銀朱が述べた時だった。背後からの覚えのない声に、銀朱は伏せていた顔を上げた。エセルバードもビセンテも、声の主を注視している。

 ふたりの王子の視線を集めた女性は、自らを飾ったドレスの裾を羽のように軽く踊らせて玉座へと近づいてきた。

「失礼いたします、陛下。ディアン様はいかがなさったのですか?」

 銀朱が目をそらしたくなるほど滑らかな胸元を晒した彼女は、その顔に憂いを帯びながらたずねた。細い首には紅玉や翠緑石を惜しげもなくあしらった首飾りが輝いている。年齢は四十を越えていたが、爛熟した魅力と華々しい存在感を持つ女性だ。

「心配しなくてもいいよ。少し疲れが出たみたいだ」

 まぁ、と彼女は頬に手を添える。真っ赤な紅を差したくちびるが、やけにあでやかだ。

「社交好きのディアン様が退席なさるなんて、よほどご体調が思わしくないのではございませんか? 陛下をお一人残されるなんて……」

 女性がシグリッドの隣に回り、空いた椅子にさりげなく腰かけようとした。

 銀朱は我知らず緊張に固まった。シグリッドの隣は王后の椅子だ――つまり、ディアン以外が腰かけることは許されない。

「コンスタンツァ様」

 声を発したのは、エセルバードだった。彼は銀朱も見慣れてきた笑みを湛え、中途半端な姿勢で腰を浮かせた女性へ告げた。

「ほかの椅子を用意させましょう。陛下とご歓談なさるには、その椅子では何かと不自由でしょう?」

 女性は一瞬表情を強ばらせたが、やがて上品に目を細めた。

「ええ……、そうね」

 彼女はすらりと立ち上がった。シグリッドが何事もなかったように、そのなよやかな手を取る。

「隣室へ移ろうか、コンスタンツァ。ちょうど小腹が空いてね、ひとりで食べるには寂しいと思っていたところなんだよ。つきあってくれないかな?」

「もちろん、よろこんで」

 あだやかに笑みを咲かせ、彼女はシグリッドとともに隣室へと姿を消した。その後ろ姿を見送りながら、ビセンテが雑音に紛れるほどの大きさで吐き捨てる。

「……傲慢な。油断も隙もない」

 弟の雑言が聞こえたのだろう。エセルバードが軽く肩を竦めるのがわかった。

「用を済ませたら、おまえは早々に陛下をおとなうといい。苛立った顔を見ていても不快なだけだ」

「兄上は腹立たしくないと?」

「コンスタンツァ妃が私の母なら、止めはしなかっただろうね」

 ビセンテは眉を寄せたまましばらく黙っていたが、結局は兄に反論しなかった。簡単に辞去を述べると、難しい表情のまま大広間の隅へと去っていった。

「さて、僕たちもここから離れようか?」

 ええ、と同意しながら、銀朱は一連の出来事を思い返した。先日のエセルバードの言によると、三人の妃の関係は良好ということだった。しかし、さきほどコンスタンツァが王座に腰かけようとした行為――おそらく故意によるもの――は、ディアンを軽視しているが故だろう。彼女はコルトサード侯爵の遠縁だと聞いた。侯爵の息がかかっているはずだ。

「君が何を考えているのかわかるなぁ」

 笑いを含んだ声に顔を上げれば、エセルバードの愉快げな表情が写った。新緑の双眸に光が踊っている。

「……そうかしら」

「そう。けれど間違っていたら恥ずかしいから、言わないでおこうかな」

 からかわれたのだと、銀朱は理解した。カリンを廃嫡させてまで騎士にした男だ。銀朱をからかうことなど些事だろう。

 肺から澱んだ呼気を吐き出すと、肋骨が小さく軋んだ。きつく締めた胸や腰が痛い。

『……早く戻りたいわ』

 腹部を押さえながら、エセルバードにも聞こえないように桐語で呟いた。身体を締め上げるものすべてを脱ぎ捨てて、寝台に入りたい。そしてできることなら、今日だけは桐のお茶を淹れる贅沢を味わいたい。

『では、手早く挨拶回りだけ終えてしまおう』

 蜜のように甘やかな声が、流暢な桐語を紡いだ。エセルバードが桐語を操っているのを聞くのは初めてだった。

『ジラ妃にクラウス兄上とマデューク兄上、あとは四公爵の面々と宰相に顔を合わせれば、今夜の役目は終了だ。早々に戻って休もう』

 耳聡く銀朱の不満を拾ったらしい。あと八人、と数えただけで眩暈を覚える。

『そうだな、まずは近場のマデューク兄上から行こうか。順に回って八人目になったら、銀朱は具合が悪いふりをするんだ。そうすると円滑にこの場を去れる』

『……わかったわ』

「では行こうか」

 マデュークはコンスタンツァの長子だ。母親の態度を思い出すだけで、銀朱は暗澹としてくる。彼女は自分に見向きもしなかった。つまり相手をするまでもないとあしらわれたのだ。しかし、陰で中傷されるよりはわかりやすく潔いのかもしれない。

 コンスタンツァに似た小麦色の髪の青年を認め、銀朱は覚悟を決めた。

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