黒巣漆●if●「君に勝てた日」
「漆黒鴉学園」の次の回を甘く書けるように準備運動がてらに
書いてみました!
いい加減星くんの恋人ifを書けとは自分に言っているのですがね(笑)
また今度にします!
恋ちゃんに色んな意味で負けっぱなしな漆くんの
些細なツンデレの逆襲ww
この日だけで、あとは恋ちゃんに真っ赤にされてしまえばいいとは思いますが
こんな漆くんもいいじゃないでしょうか
2013年 08月09日(金) 18時36分
※落書きの挿絵がついています。
木の葉が茜色に染まりきり、風に揺れて落ちる季節。
放課後の図書室で宮崎音恋は、落ち込んでいた。
机の上に額を押し付けて、音恋は呻く。
向かいに座る黒巣漆は、笑みを浮かべてその音恋の様子を楽しんで眺めた。
「負けるなんて……負けるなんて……スペルミスで学年一位を……逃すなんて」
涙目で嘆く音恋は、二学期の中学試験の結果を見てから落ち込んでいる。
英語のスペルミスで、音恋は学年一位を逃した。
そして僅か一点の差で黒巣が学年一位の座を手に入れたのだ。
試験競争で漸く音恋に勝てた黒巣は鼻を高くしている。
念願の勝利だ。
「残念だったな、宮崎。スペルミスで、満点一位を逃すなんて」
「うぅ……」
「威嚇してるんですかー? そーれ」
悪癖を披露して逆撫でする黒巣に、音恋は顔を上げて睨み付ける。
そんな睨みなど、怖くはない。仔猫が威嚇するような可愛さだ。
音恋はこう見えて負けず嫌いである。
いつも優勢だった彼女を、やっと負かせて今まで黒巣が味わった敗北を味あわせることが出来た。
音恋の悔しそうな顔に満足して優越感に浸る。
黒巣の嬉しそうな笑みに、ますます悔しがる音恋はむぅっと唇を尖らせて睨む。
「黒巣くんなんて……嫌い」
ぷい、と音恋はそっぽを向く。
呟かれた"嫌い"という言葉に、黒巣は笑みをなくした。
長年黒巣は音恋に勝つために密かに挑んでいた。
音恋に勝って、音恋の頭を撫でてやるため。
しかし頭を撫でるという目的は既に果たした。音恋の笑みも見れたのだ。
優越感を抱く勝利を得られたが、音恋に嫌われたいわけではない。
音恋の悔しそうな顔は楽しいが、希薄でも嫌いと言われては気分が台無しだ。
音恋に言われたい言葉は、それの逆。
「…………」
音恋から視線を外して、黒巣は窓を見る。秋の空を眺めたあと、また音恋に戻す。
何年も想い焦がれる相手を見つめた。
音恋はその眼差しに気付くと、起き上がる。
顔の高さが近付くと黒巣は、顔を近付けた。
「……次の試験」
鼻が触れるほどの距離で、黒巣は口を開く。
「俺が勝ったら――――…キス、してい?」
勝利の報酬。
真っ直ぐに黒い瞳を見つめる。
想いはもう、それだけで伝わるようになった。
昔のように一方通行で届かない想いではなくなったのだ。
想いが届いた音恋は、目を見開くと頬を赤らめた。
冷静沈着の音恋の動揺に、試験の結果よりも黒巣は優越感を覚える。
いつもは黒巣が音恋に動揺させられて頬を赤らめてしまっていたが、今日やっと仕返しが出来た。
想いは音恋に伝わり、鼓動を高鳴らせている。
この静かな図書室に、響いてしまいそうだ。
「――――…次は、負けないもん」
頬を赤らめたまま音恋は毛を逆立てた仔猫のように、対抗を示す。
それは承諾したともとれる言葉だった。
負ける気はない。
だが万が一負けたならば、その報酬を与える。
想いが明らかになってから、友だち以上の甘い関係を保っていた二人は、確実に互いに歩み寄っていた。
黒巣はやはり、嬉しそうな笑みを浮かべて音恋を笑った。
それは、黒巣が音恋に勝てた日。