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黒巣漆視点●恋人if●「初雪初デート」

2013年 03月 20日 (水) 07:27


if 恋ちゃんと漆君が恋人で、冬設定。


漆君視点バージョン。



おはようございます!

早寝したおかげで体調良くなりました!(^^)

ご心配おかけしてすみません!


昨日ギリギリまで粘って書いた漆君視点を今書き上げたので、出勤前に載せますね!






「今夜、初雪が降るんだって」


 雪というワードを聞いて、漸く回ってきたチャンスだと思いデートを即座に決めた。

宮崎は特段変わった様子も見せず、いつもの無表情で頷く。

付き合いだして一ヶ月。

宮崎との距離は近くなった。というか向こうから近付いてくる。

それに戸惑って緊張して、なかなかデートを言い出せなかった。

両想いだってことも、全然実感が沸かない。未だに信じられないくらい。

けれど、その疑う気持ちを払拭するみたいに、宮崎は近付いてきた。

 ご飯を食べる時は腕が触れるくらい近くに座ってくるし、下校は宮崎から「一緒に帰ろう」と誘ってきては隣を歩くし、俺にばかりその黒い瞳を向けて見上げてくる。

この前の帰りなんか、俺のブレザーの後ろの裾をずっと摘まんでたし。

 ずっと一方通行の恋でそっぽ向かれていたのに、今は宮崎が俺を好きだっていう事実だけですんげー幸せで、もっと欲してしまいなにか下手してこの幸せが壊れるのが嫌で行動ができなかった。

 でも、今夜は一緒にいたい。

宮崎とまた雪が見たい。

だから俺は理事長に許可を貰いに向かった。

初デートが学校なんて嫌がるかと思ったが、ライトがあると灰色に覆われた空が黒に見えるから最適なんだ。去年一緒に見た時と同じ条件を揃えて、宮崎の感動した瞳が見たい。

高揚を感じながら、寮のラウンジで待っている恋人を迎えに向かった。

 そのラウンジのテレビスペースで、女友達と宮崎は話していた。

なんか俺達の交際について相談しているみたいだ。

「なんの話だー?」と橙先輩がソファーに近寄ると姫宮がすぐに「ネレン達が初デート!」と答えた。


「はぁあ!? まだデートしてなかったのかよ! ナナの奴、それでも男か!?」

「吠えるだけの男に言われたくないですねー」


 声を上げる橙先輩に皮肉を吐き捨てやる。

「言い触らしてんじゃねーよ」と宮崎に一言。

ぜってーあとでからかわれる。口止めしておくんだった。

 クルっと方向転換して玄関に引き返す。ああやっちまった。手を繋いで行く予定だったのに。

外野のせいで予定を忘れてた。

玄関を出たあとに振り返ると、追い掛けてきた宮崎は灰色のコートを両腕で抱えている。

……繋げねーじゃん。

 空はすっかり暗くなったから、雪がひらひらと落ちてきた。

「上見るな」と言えば素直に従って下を向く宮崎を、抱え上げてから翼を出して飛ぶ。

学校の屋上のフェンス前に降り立ってから、コートを取り上げる。

「コートいらねーよ」と一言。

 二人フェンスを背にして並んで座る。

片羽を宮崎の背中に回して包み込むようにした。

冷たい風と雪から宮崎を守る。風邪、引いたら長引くし。

コートを着るよりは暖かいはず。


「寒くないだろ?」

「うん」


 頷いた宮崎が俺に顔を向けるから、右にいる宮崎と目を合わせることになった。

合図もなく、二人して同時に空を見上げる。

 真っ暗な空から、あの時に似た羽根みたいな雪が降り注ぐ。

ライトで黒を強調した空から、同じく白を強調した雪が幻想的にこの目に映る。

ひらりひらり、と揺れながら落ちていく小さな鳥の羽根のような雪を黙って見つめた。

 中等部三年の二学期に感じた気持ちが甦る。鮮明に脳裏に浮かぶ。

横を盗み見てみれば、宮崎はあの時と同じ表情をしていた。

見惚れている。

普段と同じ笑っていないけれど、目を見開いて丸くしていた。その黒い瞳はキラキラしてて、喜んでいることが伝わる。

そんな目をして彼女があの時呟いた言葉を思い出す。


「……あの時さ」


 口を開けば白い息が出る。宮崎がこっちを向く前にサッと目を逸らす。


「羽根みたいで綺麗だって、言ったよなアンタ」


 覚えていないかもしれないけど。


「黒巣くんも綺麗だって言った」

「俺は違う。俺は宮崎が…………なんでもない」

「? なに?」

「なんでもない!」


 俺は見惚れている宮崎が綺麗だと思って思わず口からポロッと出た、なんて言えない。

誤魔化すために片羽で小突いたら、俺の方によろめく。その拍子に脚の隣に置いていた手に、宮崎の手が重なった。ドキッとする。

しかしすぐに引っ込んだ。

なんで引っ込めるんだよ……。


「危ないよ、落ちる」

「絶対に落とさない」


 落とすわけないじゃん。

ああ、今手を掴めばよかった。

そう考えながらも口を動かす。


「理事長の羽根なら白いから、いつでも見れる」


 視界の隅っこで、宮崎がきょとんとしたのがわかった。


「私は黒巣くんの黒い羽根も好きだよ?」

「嘘つけ。白い方が好きだろ、闇嫌いじゃん。これみたいに真っ黒い空から光っているような白い雪が降り注ぐ感じが好きなんだろ?」


 さらりと"好き"って言葉を口にするから、心臓がバクバクと高鳴る。

それを悟られないように平然を装いながら空を顎で指す。

 俺の羽根が白ければ、いつでも降り注げるのに。

真っ暗闇が嫌いな宮崎のために光みたいに注げたらいいのに、ってずっと思っていた。

この雪みたいに俺の羽根が純白なら、いつでも喜ばせることができる。


「逆に降り積もった雪に黒巣くんの羽根を散りばめても素敵だと思う」


 間も置かず宮崎がそう言うものだから顔を向ける。

漆黒の髪と瞳に、病的な白い肌。この空みたいに白と黒が強調した容姿を持つ、俺がずっと好きな女の子。

 俺の見惚れた表情を宮崎に真っ正面から見られないように、必死にポーカーフェイスを作る。


「真っ黒じゃなければ好きだよ。特に黒巣くんの羽なら、こうして包まれてても好き」

「…………あっそ」


 また"好き"という。

耐えきれなくてスッと顔を上げる。にやけるな、と自分に指示する。

幸せすぎて頬が緩みそうだ。

幸せすぎて宮崎を触りたくなってきた。

手ぐらい、繋ぎたい。

 ちらっと、宮崎を横目で見る。宮崎も空を見上げていた。

雪に夢中になっている隙に、さりげなく手を繋ごう。それとも先に、許可を得てから握るべきか?

迷いつつも右手を宮崎の左手に近付けていくと、こっちに視線を向けてきたから、手を止めてサッと雪が降る空に目を戻す。

宮崎の視線を感じてまたドキドキと高鳴る心臓の音が、静かすぎて宮崎に聴こえていそうで嫌だ。

白い息を吐いて誤魔化す。

少しの間、宮崎の顔は俺の方を向いていた。

すると縁を握るように静止していた右手に、宮崎の左手が触れる。さっきの事故ではなく、宮崎から近付いてきて小指と小指が絡まった。

 また宮崎から近付いてきた。俺から握ろうと思ったのに、と文句を内心で言いながらチャンスを逃がさないように宮崎の冷たくて小さな手を右手で握り締める。


「冷たい」


 不思議と心臓は落ち着いてきた。ただ強く脈を打っているけれど、ゆっくりだ。

照れ隠しで呟く。

宮崎の手は、俺の熱を吸収したみたいに冷たさをなくしていった。

 近付きたい。そう思うと、宮崎から近付いてくる。

以心伝心で同じことを思っているのかと思うと、嬉しすぎて幸せすぎて素直になれなくなってしまう。

ああ、本当。ムカつくなコイツ。

俺が宮崎のことを幸せにしたいってずっとずっと思っていたのに、俺の方が幸せで一杯にされてるんだ。

 去年のあの時は俺が隣にいたっていう記憶はきっと刻まれないと思ってた。実際そうだったみたいだし。

けど、今夜は。

俺の記憶にも、彼女の記憶にも。

鮮明に残るのだろうか。

もう宮崎の中では俺は希薄な存在じゃない。自惚れじゃないと、握った柔らかい手の感触で実感する。

俺も宮崎が好きで、宮崎も俺が好きだっていう相思相愛。

今夜はもっと近付いていいよな?


「寒い?」

「ちょっと寒い」


 確認すれば宮崎は寒いと答えた。二人の間にあった空間を埋めるように、右に移動する。

腕が触れ合うくらい寄り添う。

 意を決して宮崎に顔を向ければ、宮崎はもう俺を見上げていた。ちょっとだけ低い位置にある宮崎はじっと俺を見上げてくる。

彼女の頬は寒さのせいか、もっと別のものが原因なのか、ほんのり赤い。

笑っていないけれど、可愛い。


「黒巣くんの黒い瞳も好き」

「ぶぁーか、好き好き言い過ぎ」


 俺の瞳を見つめてきた宮崎からの"好き"にまた恥ずかしさを覚える。

こっちの台詞だ。

今度は目を放したくなくって、見つめ返す。

こうして見つめ合っていたら宮崎への"好き"って気持ちが溢れてきて、声にして伝えた。


「……俺も好き」


 好き。好き。

なんか好きだけじゃあ足りない気がするが、"愛している"なんてまだ言えそうにもない。だから"好き"。

 それでも嬉しかったのか、宮崎は微笑んだ。笑っても可愛い。俺に向ける微笑に、嬉しくてポーカーフェイスが崩れた。

 ────…今、幸せ?

あとで訊いてみようと頭の隅で思いながら、静かに降り積もる白い鳥の羽のような雪の中、互いに目を閉じるまで見つめあった。




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