黒巣漆●if●「初雪初デート」
2013年 03月 10日 (日) 21:15
if(恋人設定)/黒巣漆/初雪初デート
if 恋ちゃんと漆君が恋人で、冬設定です。
恋ちゃん視点。
書いてて何故か恥ずかしかったです。
そしてとても楽しかったです!ww
漆君ターンを書いてる最中に思い付いていたのですが、冬が終わる前に書こうと後回しにしていました(苦笑)
「ふぅん。じゃあ今夜はデートな」
今夜は雪だと話題に出せば、彼から漸くそのワードが出た。
なんでもないように、何かのついでのように、デートを決めた黒巣くんの横顔は無表情。
デートに乗り気なのか、そうでないのか判断できない。
まだまだ彼のことは理解出来ていない。
黒巣くんと交際を始めて一ヶ月経ったけれど、特段変わったことはなかった。
男女の交際とはこういうことなのかな? と首を傾げてしまうくらい実感が沸かない。
ご飯を食べる時は皆と一緒だし、登校はサクラ達とだし、下校は紅葉ちゃん達と黒巣くんも混ざる。
二人っきりになるデートも互いに言い出さなかったから、今夜が初デートだ。
これは順調と言えるのか、と私は紅葉ちゃんとサクラちゃんに訊いてみた。
「えー! それは黒巣が悪いよ! 冷たい!」
「えぇー、照れてるだけだよ。恋ちゃんからリードするべきだよ」
ラウンジのテレビスペースのソファーで、サクラと紅葉ちゃんに挟まれて話す。
二人の意見は見事に別れた。
紅葉ちゃんの"照れてる"が近いかもしれない。私も黒巣くんも交際は初めてだし、黒巣くんはなかなか素直になってくれない人だ。
私から早く誘うべきだったのでしょうか。
「なんの話だー?」
ひょこ、と橙先輩が顔を出してきた。
サクラがすぐに「ネレン達が初デート!」と答える。
「はぁあ!? まだデートしてなかったのかよ! ナナの奴、それでも男か!?」
「吠えるだけの男に言われたくないですねー」
ギョッとしている橙先輩の後ろに黒巣くんが皮肉を吐き捨てた。
「言い触らしてんじゃねーよ」と一言私に文句。
それから行くぞと言わんばかりにスタスタと玄関に向かってしまう。
私もコートを持って、追い掛けようとしたらサクラ達に「楽しんでね!」と声をかけられた。
頷いて、黒巣くんを追い掛ける。
午後八時。
デートの場所は、夜の学校。
もう暗くなった空からは、雪がひらひらと落ちていく。
「上見るな」と釘を刺されたので下を向いていると、ひょいっと黒巣くんに抱え上げられた。
黒い翼を広げて飛んだ黒巣くんは、屋上のフェンス前に降り立つ。私を下ろすと持っていたコートを奪った。
「コートいらねーよ」
とのこと。
二人並んでフェンスを背にして座る。目の前には校庭。
暗くなった校庭で部活動をする時だけ使われるライトがついているから、無人の校庭がよく見えた。
黒巣くんは片羽を私の背中に回す。私と黒巣くんは黒い翼に包まれるような形になった。
コートがいらないという意味はこういうことか。
黒い翼が傘の役割を果たしてくれているし、少し暖かさも感じる。
「寒くないだろ?」
「うん」
寒くない。
頷いてから左にいる黒巣くんに顔を向ければ、黒巣くんも私を見ていた。
合図もせず、二人して同時に空を見上げる。
真っ暗な空から、小鳥の羽根みたいな雪が降り注ぐ。
どこからともなく、ふっと黒い一面から現れては落ちてくる。
ひらりひらり、と揺れながら落ちていく雪を黙って見つめた。
中等部三年の二学期も黒巣くんと空を見上げたことがある。
真っ黒い空からライトで白さが強調された雪の光景は幻想的で私も黒巣くんも好きだから、雪が降る予報に"初雪初デートしよう"という発想が出た。
「……あの時さ」
白い息を吐いて黒巣くんが口を開いたので、顔を上げたまま目を横に向ける。
黒巣くんは空を見上げたまま。
「羽根みたいで綺麗だって、言ったよなアンタ」
中等部三年の時のことだろうか。
あまり記憶にないけれど、多分そう。デート中に不機嫌ならないようになんとか思い出す。
「黒巣くんも綺麗だって言った」
「俺は違う。俺は宮崎が…………なんでもない」
「? なに?」
「なんでもない!」
私に回されていた片羽で小突かれて、黒巣くんの方によろめく。その拍子に置かれていた黒巣くんの手に触れてしまったので引っ込める。
「危ないよ、落ちる」
「絶対に落とさない」
黒巣くんはこちらに顔を向けずに答えた。
「理事長の羽根なら白いから、いつでも見れる」と続けて言う。
きょとんとする。
白い羽を持つ理事長に雪代わりに羽根を撒き散らせと頼んでも仕方ないです。
「私は黒巣くんの黒い羽根も好きだよ?」
「嘘つけ。白い方が好きだろ、闇嫌いじゃん。これみたいに真っ黒い空から光っているような白い雪が降り注ぐ感じが好きなんだろ?」
闇恐怖症だってことを知っている黒巣くんは、空を顎で指して言う。
自分の羽と、理事長の羽を比較しているみたい。
「逆に降り積もった雪に黒巣くんの羽根を散りばめても素敵だと思う」
私がそう答えると目を見開いた黒巣くんがやっとこっちを向いた。
「真っ黒じゃなければ好きだよ。特に黒巣くんの羽なら、こうして包まれてても好き」
「…………あっそ」
黒巣くんは素っ気なく返すとスッと顔を上げる。これは照れていると解釈しよう。
また黙って、降り注ぐ雪を眺めた。
ちらっとだけ、黒巣くんを横目で見る。
白い息を吐いて雪を眺めている横顔から、視線を下げる。
縁を握るように置かれている黒巣くんの右手。
少しドキドキしてしまうけれど、きっといつまで経っても黒巣くんから握ってきてくれないだろうから勇気を出す。
先程触れてしまった左手をそっと動かした。
彼の右手まで、あと三センチ。ゆっくりと縮めていって、小指を絡ませる。
すると黒巣くんの右手が動いてきゅっと私の左手を握り締めてくれた。
「冷たい」
そう一言漏らす。
また少し無言になったけれど、黒巣くんは「寒い?」と確認してきた。
「ちょっと寒い」
本当は寒さなんてちっとも気になっていなかったけれど、嘘をついてみる。
そうすれば黒巣くんは手を握ったまま、私の方へと移動してきて寄り添ってきた。
腕が触れ合う距離。
ちょっとだけ、高い位置にある黒巣くんの横顔を私は見つめた。
黒巣くんも雪を眺めるのをやめて、顔を向けてくれる。
黒巣くんの前髪には雪の結晶が少しついていた。
じっと見つめ返してくる真っ黒い瞳を見上げる。
「黒巣くんの黒い瞳も好き」
「ぶぁーか、好き好き言い過ぎ」
黒巣くんは照れたようにぶっきらぼうに返したけれど、今度はそっぽを向かなかった。
「……俺も好き」
囁くように黒巣くんから"好き"の言葉を貰えた。
やっと言ってくれた、と私が微笑むと黒巣くんも照れくさそうに笑みを溢す。
私達は目を放さない。
静かに降り積もる白い小鳥の羽のような雪の中、互いに目を閉じるまで見つめ合いました。