黒巣漆視点●おまけ●「タオルケット事件」
2013年 02月 04日 (月) 20:29
黒巣漆視点にいれそびれたシーンです。
「ふぁあ」
大きな欠伸を一つ漏らす。
寝ていたのに呼び出されてまたパシリを引き受ける羽目になった。
まぁ、宮崎の監視はいつもやってるけど。
ヴィンセント先生がなんかやらかして宮崎から接近禁止を言い渡されたらしい。
あの無頓着が接近禁止令を出すほどのこと、なんだ?
気になったが、眠い。
水でも飲んでから寝ようとラウンジに入った。
ラウンジには、甘い匂いが充満していた。つーか、なんで電気ついてるんだ。
もう深夜を回っているから、利用者がいるのは可笑しい。
テレビはついていたが、利用者は見当たらない。誰かつけっぱなしで帰りやがったな。たっく。
めんどくさく思いながら、テレビを消そうと足を向ける。
「……………………」
リモコンはどこかと探して、ソファーを覗けば────…思わず後退りした。
夢、か? いや、まだ俺は寝てない。
恐る恐るもう一度覗いていた。
いた。いやがる。
宮崎音恋がそこに寝ていた。
ソファーで黒い髪を撒き散らして、足を折り畳み丸まって横たわっている。
なんでコイツ、こんなところで寝てんだよ……!?
ヴィンセント先生が姫宮を差し向けたから大丈夫だとか言っていたけど。
姫宮が宮崎のベッド占領したのか?
なにやってんだよ。あの女は。
しかも宮崎は、なんて言ったか……忘れたがほぼ下着同然のワンピースを着ている。上に着たカーディガンで隠しているみたいだが、見えてるぞ。
こんないつ人が来ても可笑しくない場所でそんな格好で無防備に寝ている神経を疑う。
叩き起こそうかと手を伸ばしたが止めた。
寝不足だから寝かせておくべきかもしれない。部屋に戻って眠れなかったら倒れちまうよな……。
でもここで一人寝かせられない。
俺みたいに飲み物を取りに来る奴がいるかもしれないし、そいつがこんな格好で無防備に寝ている女の子に、変な気を起こすかもしれない。
……くそ、徹夜かよ。
舌打ちしたい気持ちを抑えて、誰かが来る前に部屋に戻ってベッドの上のタオルケットを掴み戻る。
宮崎を起こさないようにそっと上に掛けた。
起きない。ピクリともしない。
ほんっとうに無防備だな。
だから階段から突き落とされたり、水をぶっかけられたりするんだ。嗚呼、思い出したら腹立ってきた。
この前もそうだ。
"一生面倒見る気がないのだから、最初から放っておいてよ。だいたい、君は神様の命令だからでしょ。私の幸せを願ってもいないのだから、私の人生を引っ掻き回すのはやめて。幸せは自分で決める"
宮崎が怒って言った台詞。
カッとなって宮崎を掴み、危うくぶちまけるところだった。
俺の目からしたら宮崎は自分から不幸になろうとしているようにしか見えない。
つーか、一生幸せにって……ふざけんなっつーの。
一生幸せにするなんて、言えねーよ。
背凭れに顎を乗せて、宮崎を見下ろす。
……寝顔可愛いな………………なんて思ってない。思ってない。
「……はぁ」
思わず溜め息を溢した。
それで宮崎の瞼が動く。
「んぅ……」と宮崎が身をよじらせて目を開いた瞬間に、その場から逃げ出して男子寮の入り口の壁に隠れた。
あっ! しまった!
俺のタオルケット!!
ソファーからだと男子寮の入り口は丸見えだから覗けない。耳をすませばのそのそ動いているような音がする。
それからラウンジの灯りが消えた。宮崎の足音が聞こえなくなってから、真っ暗なラウンジに戻ってソファーを探す。
タオルケットがない。
持っていきやがった……!
脱力してソファーにぶっ倒れた。