●黒巣漆●誕生日記念●入学式if●
6月6日。誕生日記念。
入学式。
黒巣漆がもしも、手を掴むことが出来たなら。
漆黒鴉学園高等部の入学式。
高校生活に期待で一杯だった朝から、一転した。
この世界は、病弱で早くに死んでも、必死に生きた少女のために作られた。シヴァと名乗る神様が告げた。
その少女の生まれ変わりは、宮崎音恋。
俺の初恋の人。
彼女が好きだった乙女ゲームの舞台。俺も含めて、ラブロマンスの相手に過ぎない。
彼女なら、俺の心を簡単に奪える。
混乱と気持ち悪さに襲われながらも、俺は宮崎音恋を捜した。
入学式が終わって生徒が出てくる廊下で、待った。宮崎音恋をすぐに見つける。
乙女ゲームのヒロインである姫宮桜子と、肩を並べているのを目にして、思わず目を背けた。神様が話した通りだ。
――シナリオ通り。
絶望が湧き出てきたが、抑え込む。まだ、確かめたい。
神様が言うには、入学式の日に接触はない。シナリオにないことを、宮崎にしてほしかった。
だから、顔を伏せたまま、心の中で願った。
こっち向けよ。俺を見てよ。
振り向いて。
俺を見てくれよ。
強く強く、念じた。
でも、宮崎は、姫宮桜子と話しながら、俺の前を通り過ぎてしまう。
胸が痛んだ。引き裂かれるような痛み。
すべてが嘘だったと思い知る。
中等部の1年の三学期。あの時、出会わなくとも、いつかはこの想いを植え付けられた。
この想いは、キレイなもんじゃなかった。
去年一緒に見た雪みたいに、綺麗なものなんかじゃないんだ。
その場で泣いてしまいそうになり、目元を片手で覆う。
……羽根みたいで綺麗。
瞼の裏に、あの日が鮮明に浮かんだ。真っ黒い空からひらひらと白い羽根のように降り注ぐ雪。
その中にいる宮崎は、大きな黒い瞳を見開いて、夢中で見つめていた。
胸の痛みが、熱に変わる。熱くて、熱くて、堪らない。
あの時も、俺は……。
俺を見てと強く願った。でも、伝わるわけがなかった。言わなきゃ、伝わらない。
胸の熱さに駆り立てられるように、俺は。俺は。
宮崎を追い掛けた。
そして、あの日掴み損ねた手を、掴んだ。
「――俺を見てよっ」
引っ張れば、俺を振り返った宮崎は、目を見開いた。あの日夢中になって雪を見ていた黒い瞳が、俺を映し出す。
「……見ましたが? 黒巣くん」
見つめたあとに、宮崎が首を傾げた。
そこで我に返る。自分がやってしまった言動に、顔は耳まで真っ赤になったのを感じた。
反射的にパッと手を放す。
宮崎は自分の手を見てから、俺を不思議そうに見上げた。
後ろでは何故か、姫宮桜子が、赤面しているけれど、そんなの気にしている場合じゃない。
今の言動の言い訳をしなくてはっ。
「……」
「っ……」
「?」
宮崎に見つめられ、俺はなにも考えられなくなった。
「な、な、なな、なんでもないっ!」
そう言うのが精一杯で、そのまま逃げ出してしまった。
学園内を駆けていたら、理事長である祖父の姿を見付ける。
迷わず、祖父の背中に飛び込んだ。
「やばい! おじいちゃん! やらかした!」
「初日からなにやらかしたんだい? 廊下は走っちゃだめ」
「み、みみ、宮崎にっ」
「当たって砕けちゃったの?」
「!?」
おじいちゃんのいつもの毒舌に、大ダメージを受けた。
そのまま理事長室に入ったから、その中で座り込んだ。落ち込む。
おじいちゃんは肩を竦めて、俺の顔を覗き込んだ。
「なんだい、どうしたんだい?」
「宮崎に……変なことしちゃった……」
ポン、とおじいちゃんの手が、肩に置かれた。顔を上げてみれば、おじいちゃんは微笑んだ。
「自首しなさい」
「なにしたと思ってるの!?」
俺の言い方が悪かっただろうけど、孫を信じろよ!
「渡り廊下で、宮崎の手掴んで、俺を見てって……言っちゃった!」
「……告白して逃げてきたと」
「告白じゃねーし!!」
微笑みを保ったままのおじいちゃんから、目を背けて頭を抱えた。
宮崎、あれを告白だと思ってないよな!?
いや鈍感なアイツのことだから、きっとないな!
あっ、姫宮桜子は気付いたかもしれない!
叫びたくなるのをグッと我慢した。俺はどうかしている。
神様の世界のネタバラシの混乱から、いきなり宮崎の手を掴むなんて……。
この想いを否定しようとしたのに、なんで……。
胸が熱くなるんだ。
なんで。
冷めないんだよ。
「――――どうしよ、好きだ……」
「ん?」
「まだ……好きだ」
「……そっか」
目に涙が浮かんだ俺の頭に、おじいちゃんの掌が置かれた。優しく、撫でられる。
その掌の温もりを感じながら、俺はゆっくりと決めた。
好きなんだ。
どうしても、好きだ。
俺は、今まで見てきた宮崎を信じたい。この想いを信じたい。
宮崎が好きだ。
だからさ、神様。
アンタは宮崎をゲームのハッピーエンドを迎えるために、誰かとくっつけたがっているけどさ。俺にはできない。
でも。
俺が、幸せにしてもいいですか?
もしも一歩踏み出せたなら、少しは素直になって、
また違う展開になっていたかもしれない。
思い付いたので、誕生日記念として書いてみました!
少し早いですが、漆くん誕生日おめでとう!
20150605




