黒巣漆視点●恋人if●「にゃーにゃの日」
猫の日、なので
恋ちゃんが猫を演じてくれます!
甘め!
20140222
二月二十二日の土曜日。
休みの今日はゆっくりと眠ろうとしたのに、訪問者がきた。
「猫の日なので、猫耳つけました」
「…………で?」
ドアを開けば男子寮にも関わらず、堂々とそこに立つ猫――――…じゃなくて、猫耳をつけた宮崎がいた。
黒っぽいエプロンドレスを着ている辺り、七瀬が何かを吹き込んだに違いない。
とりあえず、他の男子に見せたくないし、生徒会長の俺がルール違反してるとはバレたくないから、宮崎の腕を引っ張って部屋に入れた。
「文化祭で見たから、驚かないんだけど」
「だから……今日は黒巣くんの猫になります」
「……? また、なに吹き込まれたんだよ」
猫耳つけたって驚かねーぞ、をアピールしておく。
さもなきゃ、またつけてきそうだ。黒髪に馴染んだ黒い猫耳をつけてると、なんとなく宮崎の可愛さがアップしている気がする。
なんかそう思ってると認識すると、宮崎は気に入ったと解釈してしつこいほど見せてくるからな……。
絶対七瀬達がアドバイスと称して操ってるんだ。
「違うよ。今朝思い付いた」
「お前の行動力、恐ろしい」
「ほら、座って」
まだスエットのズボンとニットのカーディガン姿の俺の手を引くと、宮崎はベッドに座らせた。
座った俺は全く何をするかわからないが、とりあえず乱れた布団を退かして宮崎も座れるようにしておく。
宮崎はそこに座ると、俺の膝の上に頭を置いた。枕を整えるように身をよじらせたあと、俺を真っ直ぐに見上げる。
「にゃん」
「……………っ」
いつもの無表情だが、猫耳をつけた宮崎が俺の膝の上に頭を置いているのは――――破壊力がありすぎた。
そういう意味か。
猫になりきる気か、コイツ。
「撫でて」
「えっと……」
ぼそりと相変わらずか細い声を出すと、俺の手を取り自分の頬に当てた。
俺の膝にいる黒猫が、見つめてくる。
ドキドキしながらも、宮崎の頬を撫でたが堪えきれない。
「腹減ったから、退いてくれよ」
「……二度寝したい」
「俺は朝飯食べる」
「……」
平常心を装って言えば、宮崎は起き上がった。
冷たすぎる反応だが、こうでもしなきゃ俺の心臓が持たない。
「宮崎もまだだろ、一緒に食べに行こうぜ」
頭につけた猫耳のカチューシャを取ろうと手を伸ばす。
今日か明日、動物園デートの約束をすれば機嫌は悪くならないだろう。
動物園デートの方が心臓に優しい。
「にゃーにゃ」
宮崎がまた猫の鳴き真似をするから、耳に触ったところでピタリと止まる。
「にゃーにゃ」
また宮崎は鳴き真似をした。
なんだか、まるで、俺を呼んでいるように聴こえるのは何故だろうか。
「にゃーにゃ」
三回目を聴いて、ハッとして気付く。
俺の名前を呼んでるんだ。
ナーナって。
「にゃーにゃ」
「っ、それ、止めろよ」
「にゃにゃ」
「止めろってば! うわっ」
猫語で呼びながら、宮崎は俺に寄り添ってきたかと思えば、すりすりと頬ずりしてきた。
「にゃにゃと、二度寝したいにゃ」
「〜〜っ!」
静かな声で、じっと上目遣いで見つめて、要求してくる猫化した恋人に、これ以上止めろとは言えなかった。
「あーもうっ、わかった! こうすれば満足か!」
迫りくる宮崎を抱き締めて、そのままベッドに倒れた。俺の上にいる宮崎は「うん」と言いながら、すべすべな頬を擦り寄せる。
「……あったかい」
「にゃん」
「……もう猫語と頬擦りは止めてくれ」
密着してるだけで温かい。当然だよな。
宮崎の猫耳を外して、抱き締めたまま二度寝することにすれば、宮崎は満足そうにすやすやと先に眠りに落ちた。
その寝顔が、今日一番可愛いと思ったのは、絶対に言わない。
その後、恋ちゃんは一緒に二度寝したいがために来ただけだと発覚。
「宮崎……一緒に二度寝したいだけなら、普通に来いよ」
「あぁそれは、今日猫の日だから。紅葉ちゃんが、昨日にゃんにゃんしたらどうかって、このエプロンドレス貸してくれたからやってみた」
「やっぱりアイツに吹き込まれたのかよ!」
お粗末様様でした!