黒巣漆視点●恋人if●「温める」
まだ一年生の冬設定!
漆くん視点で、
恋ちゃんを待たせ過ぎたお話。
短く、甘いです。
20131118
急いで生徒会室から飛び出す。全力で走りたかったが、生徒会長らしく、人間らしく、廊下を早足で昇降口に向かった。
昇降口の中の壁に寄り掛かって立っている彼女の元に慌てて駆け寄る。
ギョッとした。
赤いマフラーに顔の半分を埋めた彼女は、俺を睨み付ける。
「ご、ごめん……悪かったよ……待たせ過ぎた……」
「…………」
生徒会の仕事が一時間も長引いてしまい、恋人の宮崎を待たせ過ぎた。
申し訳なく謝ったが、宮崎は黙って俺を睨む。
相当怒ってる。
ここで俺が「仕事だからしょうがないだろ」と言えば、三日は口を聞いてくれなるからひたすら謝った。
前にそれで宮崎と喧嘩したから。
待ってくれ、と頼んだのは俺だ。
ちゃんと機嫌が治るまで、必死に謝った。
「……寒かったんだけど」
「悪かったよ……あったかいもの奢るから」
やっと口を開いてくれたことに安堵して、俺は笑いかける。
飲み物でも食べ物でも、待たせ過ぎたお詫びに奢ろうとした。
寒いのに暖房もない昇降口に待たせた償い。
「黒巣くんがあたためて」
「は? あー、まぁ、いいけど……」
靴を履き替えていれば、宮崎が俺自身で温めるように頼んできたから、ドキッとした。
前みたいに手を握ればいいのか。
「ほら」
俺は右手を差し出した。
今まで暖房の効いた生徒会室にいたから、手は温かい。宮崎の小さな手をすぐに温めようとしたが、その手はスルーされた。
宮崎は俺に抱き付いてきた。
驚いた次の瞬間、冷たさを感じて震え上がる。
「ばっ……冷た!?」
「黒巣くんが待たせたせいだから」
「ちょっ、マジ冷たい! アンタ寒いなら先帰るなり、教室で待つなりすればっ……」
「すぐ終わるって、メールしたの誰ですか?」
「…………俺です」
宮崎はボタンをかけていないコートの中に入り、セーターの中に手を入れてきた。Yシャツ越しに冷たさが伝わってくる。
その冷たさの原因は、俺がもうすぐ終わるといい加減なメールをして待たせたせい。
申し訳なく思い、その冷たさを受け入れる。
コートの中に入り込んで俺に抱き付いてくる宮崎が――――――…可愛い。
宮崎の手が触れている背中は冷たいけど、熱くなってきた。
「…………」
俺はコートと腕で宮崎を閉じ込めてみる。
この方があたったかいだろから、って適当な理由を頭に浮かべて抱き締めた。
宮崎の髪まで、冷たい。
「……待たせて、ごめんな?」
小さな彼女をこの寒さの中待たせてしまったことに、改めて申し訳なく思ってまた謝る。
「――――…私が黒巣くんを待っていたかったの」
コートの中から聴こえた声に、また熱くなった。
嗚呼、この熱さで宮崎を温められればいいのに。
温められてるのは、俺の方じゃん。
愛しくなって、俺はギュッと熱さを伝えられるように抱き締める。
そのうち冷たさがなくなり、温かくなった宮崎と手を繋いで下校した。