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大人編●漆恋●恋人if「君不足」


君不足の大人編!



恋ちゃんは、女優さん。

漆くんは、新米教師。

撮影で離れ離れになり、なかなか会えなかった二人の再会。



20131114



 目まぐるしく周りが動いていく。たくさんの人が行き交うと、感覚が揺らされるようだった。

その気持ち悪さに堪えきれず、疲労と貧血で私は倒れてしまった。



 ――――…会いたい。

控え室のソファーで目が覚めた私は、天井を見つめて彼を想う。

 ふと、気配に気付いてドアの方を向けば壁に寄り掛かって立つ彼がいた。

 勝手に台本を読んでいる。

着崩した黒のスーツ姿で長身のかっこいい男性。

台本を持つ右手の薬指には私と同じペアリング。


「……おい、なんだよこれ。キスシーンがあるなんて聞いてないぞ」

「唇は触れないよ……恋愛映画なんだから、あるよ」


 高校時代に比べて低くなった声を聴いて、夢じゃないと理解してホッとする。


「……来て、くれたんだね。いつの間に私のマネージャーと連絡取り合う仲になったの?」

「マネージャーがきょんに連絡して、俺にきた。あのマネージャー、きょんが恋人だと思ってたぞ」

「好敵手って、言ってるんだけどね……」


 彼とマネージャーを会わせた記憶はなかったから、聞いて納得。きょんくんが知らせてくれたのか。

 そして漆は、文字通り飛んできてくれた。


「……ねぇ、どうして、そんな離れてるの?」

「…………」


 力が入らなくて起き上がらないまま、そばに来てくれない漆に問う。

やっと私に目を向けた漆は「最後に会ってから何時間経った?」と質問してきた。


「四十一日だから……九百八十二時間」

「ぶぁーか、九百八十四時間だよ。暗算もできないほど疲れてんじゃん。加減できないくらい抱き締めたい衝動にかられてるのに、そんなアンタに近付けない」

「…………」


 単純な暗算も疲労で間違えてしまった。

漆は私を気を遣って近付かない。

 百八十四時間か。時間にすると、膨大に思える。

初主演の映画の撮影だから忙しくてあっという間だったけど、彼に会えなかった寂しさは大きすぎた。

 目の前にいるのに、触れられなくて涙が込み上がる。

それに気付いた漆が目を丸めた。


「……抱き締めて、漆。会えなかった時間の分、強く抱き締めてほしい」


 情けないくらい涙が次から次へと落ちてきて、漆が表情を歪める。

台本をテーブルに置くと、ソファーの私の元へ来て私を抱き締めてきた。


「ぶぁーか……泣くほど堪えるんじゃねーよ。呼べばすっ飛んで会いに行くって言っただろ。泣き虫」


 強く強く抱き締めながら、漆は「俺も会いたかった」と囁く。


「初めての映画の主演だから、邪魔したくなくて堪えてたのに……早く会うべきだったって後悔するじゃん。ぶぁーか」

「……会いたかった」

「うん」

「とても、会いたかった」

「俺も会いたかった、音恋」


 漆の声を耳にして、漆の匂いを吸い込んで、漆の温もりを感じて、涙を流しながら抱き締め返す。

 強くても優しい漆の腕の中は、とても心地がよくて癒される。疲労も回復するようだった。


「会いたい時は呼べよ。どんな時だって、飛んでいってやるから」


 涙が止まらない。

どんな時だって会いに来てくれると言ってくれた漆の優しさも、包んでくれるこの温もりも、嬉しすぎて涙が止まらなかった。

 彼がそばにいないことが一番の負担だった。

高校も大学も近くにいたけど、私は女優になり漆が教師になって撮影現場が遠ければ遠いほど会えなくなった。

 こんなにも長く会えなかったのは、初めてですごく辛かった。

漆の包み込んでくれる愛が、私を支えてくれていることを痛感した。


「ありがとう、漆」

「……ん」


 ぎゅ、と更にきつく抱き寄せる。漆は時間が許す限りずっと抱き締めてくれた。


「……ありがと、漆」

「……ん」

「愛してる、漆」

「……俺も愛してる、音恋」


 君の愛に満たされて、私は少しだけ眠った。

漆も会いたい時は呼んで。

私も君を愛で支えられるように、包み込むから――――…。


end

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