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シヴァ●悲●恋視点「神様が泣いた日」

本編とは関係ない、恋ちゃん視点。


人間に恋をしてしまった神様の悲しい悲しいお話。






 雨が少なかった昨年に比べて、今年は雨が多いとテレビの天気予報で聞いた。

恵みの雨だと言われているけれど、連日の雨は何故だろう。

とても悲しげに見える。

 淀みなく降り注ぐ雨の中を、茜色のドット柄の傘を差して歩いていたら神様は音もなく現れた。

 前みたいに、明るく「シヴァだよ」と笑いかけることなく少年の姿の神様は雨の中を佇む。

薄く微笑んでいる青い青い髪の少年の視線は、俯いている。いつも尻尾のように動いていた一本に結ばれた長い髪は、彼の肩から垂れ下がって滴を垂らす。


「ユナちゃんが、死んじゃった」


 もう会いに来ないと言っていたのにどうしたのですか。

問う前に薄く笑うシヴァ様は、前に一度気に入っていると話していた人間の名前。

正しくは、恋している人間だと話していた。

 神様が恋した人間が、亡くなった。

異質で彼女の声が聞こえない故に、夢中になっていた人。


「シヴァが死に追い込んじゃったんだ」


 薄く笑う少年の瞳から涙は出ていない。

でも彼に冷たく当たる雨が頬を伝い、泣いているように見えた。


「すごくすごくユナちゃん孤独で、至極退屈で……シヴァの話を楽しんでくれてたけど、一方で悲しんだんだ。自分の人生は酷くつまらないから……。シヴァにね、頼んだんだ。来世は退屈しない人生をお願いって。シヴァは約束したんだ、だってだってだって……あげたかったんだ、ユナちゃんにもっと楽しい来世を。来世でも会いたかったんだもん」


 笑えのままシヴァ様は告げた。

すごくすごく、悲しげだ。


「会いに行ったらもう、いなかった……死んじゃった」


 ずぶ濡れのシヴァ様は、悲しげに私に伝える。

恋した女の子は、神様に来世を任せて命を――――。


「シヴァの元に、ユナちゃんの魂来たよ。ユナちゃんの声、やっと聴こえたんだ。ユナちゃんはね、シヴァの話を聞きながら楽しそうに笑ってくれてたけど、でも奥底では羨ましくて悲しくて苦しくて……シヴァのせいで」


 苦しげに顔を歪めても、口元だけは笑っていた。


「シヴァが必要以上に会って、影響与える話ばかりして……一杯苦しませて、死なせちゃった。シヴァの方がとても長く長く長く、孤独が続いたはずなのに……彼女の記憶を観てるとシヴァより辛く感じる」


 恋した女の子に何度も会い、シヴァ様が目にした人生を聞かせた結果がこれ。


「でもね、でもね、ユナちゃんはね。シヴァといた時間が、シヴァの話を聞いた時間が、人生で一番楽しくて嬉しくて……一番鮮やかな記憶なんだ。だから、だからね。シヴァが好きだって……好きだって、ユナちゃんの魂が云うんだ。大好きだって、ユナちゃんも、云ってくれたんだよ。こんな風になってごめんって、本当にごめんって、すごくすごく悲しそうにシヴァに謝ったのが最期の記憶だったんだよ」


 止まない雨に打たれながら、シヴァ様はやっと聴けた恋した女の子の本心の話をして無邪気に笑う。

 けれども、やっぱり悲しんでいた。

シヴァ様に向けられた最期の声。それにまた歪ませた顔を俯く。その両手で包む。


「もしまだシヴァがユナちゃんを好きなら、また会おうって……………………シヴァも、来世のユナちゃんと会いたい」


 会いたい、とシヴァ様は悲しげな声を漏らす。


「でも、でも、シヴァはまた……ユナちゃんに会っていいのかな? ユナちゃんに会っていいのかなぁ? だってシヴァは……シヴァが追い込んだんだ。苦しめたのはシヴァなんだよ。シヴァが……この"僕"が、またユナちゃんに会う資格なんてあるのかな? "僕"がまた苦しめちゃうかもしれない、"僕"がまたっ……好きな子を…………会わない方がいいのかな?」


 神様が、質問する。

私に答えを問う。

 好きだからまた会いたい。

でも、また苦しめてしまう。

 神様と呼ばれる存在で、また神の役目を担う存在である彼は、自制をしなければ悪影響を与えてしまう。

また繰り返すかもしれない。

だから会わない方がいいのは、シヴァ様は理解している。


「でも、会いたいよ……笑ってくれるユナちゃんに会いたいよ。"僕"の頭を撫でてくれるユナちゃんに会いたいよ。"僕"を見てくれるユナちゃんに会いたいよ。ユナちゃんの魂で記憶を何度見てても……"僕"は会いたくて会いたくて、しょうがないよっ」


 会いたい気持ちが強くて、強すぎて、神様は誰かの答えを求めて私の元に来た。

多分、私に"会ってはいけない"と言ってほしかったのかもしれない。


「……」


 私は歩み寄る。

傘を肩にかけて、片方の手を伸ばす。冷たい雨が手に当たるけれど、気にせずにシヴァ様の頬に当てた。

雨で濡れてるそれを拭えば、悲しげな瞳がただ私を見つめる。


「今度は貴方が選択をする番なのでしょう。散々他の人達が選択をして生きた姿と記憶を観てきた貴方が、選択をする時なのです。"会わない"と選択したらこのまま神様をしっかり務めて、"会う"と選択したら――――幸せな人生になるように全てを尽くせばいいでしょう」


 拭っても拭っても拭っても、拭いきれない滴がある。

雨が止まないから当然だ。

シヴァ様を傘の中に入れるべきだった。


「私を気に入ってこの世界を作って幸せに導かせたように……彼女にも愛を注げばいいじゃないですか。私を幸せに出来たなら、彼女のこともまた幸せにできますよ。どうするか、決めるのは貴方です」


 やっぱり少年の瞳から、涙出ていなかった。

でも、空から降り注ぐこの冷たい滴こそ――――シヴァ様の涙だ。

 私は"会うな"とは言えない。

シヴァ様の想いはもう"会いたい"と答えを出しているのだから。


「…………ありがとう、恋ちゃん」


 悲しげにまたシヴァ様は、微笑んだ。

音もなく消えた。

雨音が響き渡る。雨は、止まない。

 決断は聞けなかったけれど、きっと無数にある世界の一つで、彼女を幸せな人生に導こうとするでしょう。

その物語を私が知ることはないけれど、結末は必ずハッピーエンド。

 雨はその後、数日降り続きやがて――――…爽快な青色の空が広がった。




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