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Sprout

作者: 井沢あや

 私は恋をしています。この世のすべての生命に、命を吹き込む太陽に。

 恋を、しています。

 

 

 

 私が目を覚ますのは、カーテンが開かれ、あの方の光が降り注いだ時。多くの生命がそうであるように、私の一日は、太陽と共に始まるんです。

 私は日中、動くこともできずに太陽を見つめ続けています。物という物もなく、決して広いとは言えない部屋で、太陽の光だけが私の喜びなんです。

 けれどちっぽけな私の気持ちなど、あの遠い空の彼方まで届くはずはありません。この気持ちは、誰にも伝えられぬまま、土へと還って行くのでしょう。

 それでも私は太陽を見つめ続けることをやめません。

 胸を焦がされてしまったから。

 いつか、いつか窓枠に遮られたりせずに、太陽を眺めてみたい。ささやかな、それが願い。

 青い空に、ぽっかりと浮かんで居るのは寂しくはないのでしょうか。独りで燃え続けることは、辛くはないでしょうか。虚しくは、ならないのでしょうか。

 小さな私が大きなあなたを心配するなど、身の程知らずと言われても仕方がないでしょうね。

 私はあなたの暖かな熱が大好きで。

 私はあなたの雄大な姿が大好きで。

 私はあなたの美麗な輝きが大好きで。

 あなたの照らすこの町並みも、窓のガラスも、私自身ですら、あなたの色に染まって居れば大好きになれたんです。

 ――私はあなたを愛しています。

 

 午後になり、向こうの空から雲がかかって来ました。もしかしたら一雨来るかもしれません。

 太陽との間を遮られてしまうのではないかと、私はハラハラしています。

 どうして雲は、あんなに厚く、濃く、太陽を隠してしまうのでしょう。

 いよいよ雨が降り出すと、私は体中の水分が干からびてしまうような思いがします。太陽の光に当たることすら叶わない自分は、何よりも大嫌いです。

 外はあんなに潤って居るのに、私の心はカサカサと乾いていくばかり。

 早く、早く戻って来て。

 やっと祈りが通じた時には、私はすっかり弱ってしまいます。けれど不思議なことに、太陽の光に当たりさえすれば、私はすぐに元気になれるんです。これは魔法でしょうか。

 私は胸を張って、再び太陽を見つめ続けます。

 この幸せで暖かな気持ちが、間違いであるはずがありません。

 長く雨が降ったせいで、一緒に居られる時間は、あと僅かに迫っていました。

 もうすぐ太陽が、一日の内最も赤く輝く時間がやって来ます。私もああなりたいと憧れるほどに、美しく繊細な赤に身を染めて。

 顔を半分だけ出して、ゆっくり、ゆっくり名残惜しそうに、太陽は帰って行きます。

 あの山の向こうで、あなたは一体何を考え、どんな夢を見るのですか?私も同じ夢が見たいと、日々思いを馳せています。

 もう、夜が来ますね。

 ――おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけない!水やるの忘れてた!ごめんね」

 夕焼けに染まる小さな窓辺に、小さな双葉は、そっと佇んでいた。

 

 

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。太陽に恋する発想が奇抜ですね。本当に恋する乙女心が語られ、面白かったです。  一体、この乙女は何者かな?  と思い、拝読していましたが……正体が可愛らしかったです。さりげなく人間…
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