解決
意識を失っていたのか、抱き止められた感触に気付き、僕は目を開けた。すぐ目の前に心配そうに覗き込む境生の顔があった。これで二回目だ。僕はすぐに起き上がろうかと思ったが、やっぱり少しだけこのままでいようと思った。
「お、おい大丈夫か?」
「……」
問題はない。白塗りは完全に倒した。焼け付く手がそれを物語っている。これでも僕は優秀なのだ。
それでも僕は自分の足で立つ事はしなかった。僕が境生のもとに来た理由、役目を果たせた事に満足していた。余韻にただ、もう暫く浸っていたかった。
だらりと下げた自分の手を見やると、そこには痣が戻っていた。痣が消えたのは初めてだったが、どうやら一時的なものらしい。手から視線を戻すと境生が僕をじっと見つめていた。
「な、何ですか? 顔、近いですよ」
「ん、ああ、すまん」
「もう大丈夫です。立てます」
「良し」
境生は難儀そうに僕を床に下ろし、いつの間にか抱きしめ合っている青葉と哉来に向き直った。
僕は自分で思った以上に気を失っていた事に気付き、その事がちょっと恥かしかった。
「それではこいつも気が付きましたし、僕らはこれで失礼しようかと思います」
「そんな、もう、ですか?」
「ええ、今はお二人の時間を大切にして欲しいですし」
僕としては何だか慌しい気がしたが、おそらく僕が気を失っている間に境生が必要な事はしゃべっただろうし、これでなかなか人の気持ちが分かる人だし、この人が帰るというならもう大丈夫だろうと思った。
「道明、忘れ物ないかー?」
「あ、はい、大丈夫です」
「よしっ、じゃあ青葉さん、哉来くん、元気でな」
「はい、ありがとうございます」
「おじちゃん、ありがとう!」
境生にむけて放った哉来の声が意外に子どもっぽくて、僕は少し驚いた。なんといっても彼はまだ小学生なのだ。
「お兄ちゃん、な」
「えー、だって」
「雅ちゃんはお兄ちゃんって言ってくれたぞ」
多分嘘だ。
「じゃあお兄ちゃん達、ありがとう」
僕を含める事で、哉来は哉来なりに決着をつけたのだろうと思う。彼は大人だった。
「お二人とも、この度は本当にありがとうございました」
「いえいえ、もしまた何かありましたら栄都ではなく、我が日本一妖怪退治事務所にご相談下さい」
苦笑いでも良いか、初めて見た青葉の本当の笑顔はとても美しかった。