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願い  作者: はー
絡みつく世界
31/38

表裏一体

 突如、境生の間の抜けた声が室内にこだました。

「お邪魔っしまーす」

「遅かったな。だが、もう終わったよ」

 どうやら栄都と玄関で鉢合わせになったらしい。栄都の声は聞き取りにくかった。僕は足を止め、玄関へと耳を傾ける。

「ふーん。それで皆救われたのか」

「救う? まだ君はそんな事言っているのか。呆れた奴だ」

「呆れてくれて結構。だがお前言ったよな? 問題を先に解決した方が勝ちだって」

「フン、覚えていたか」

「ああ、いつもなら『問題を先に解いた方が』って言うはずだからな」

 僕には解くと解決の違いが良くわからなかった。解く、正解を導き出す事。解決、問題を上手く処理する事、だろうか。やっぱり良くわからない。気付くと僕は足を止め、息を潜めていた。何故か二人の間に入ってはいけない気がしていた。


「フン、いずれにせよ結果はおな……じ」

 栄都の発言に耳を凝らしていると、一瞬の間があったあと、ドスンと鈍い音がした。

「おっ、おい栄都! どうした? 道明、道明、いるかっ!」

「は、はいっ!」

 慌てて階段から引き返し、急いで玄関に向うと、境生が栄都を膝に抱えているところだった。一瞬、境生が栄都に何かしたのかと思ったが、どうやらそれは違っていた。栄都は身体をだらりとたらし、顔をしかめ、苦しそうに喘いでいた。呼吸が、肺から搾り出した空気の音が、不規則に響いていて、少し気分が悪くなった。

「ど、どうしたんですか、まさか他にも居たんですか!」

「ん、他? 分からん、急に倒れた」

「そうですか、とにかく病院へ。あ、外に運転手さんが居ますよ」

「良し、そっち持ってくれ」


 僕は意識を失いつつある栄都の足を持ち、境生と二人で車まで運ぼうと玄関の扉をあけた。異変を察知したのか、殆ど間をおかず、庭に停車していた白い車から、同じく白い運転手が飛び出してきた。彼は酷く慌てていたが、その動きはとても俊敏だった。

「ど、どうしたんですか?」

「分かりません。あの、僕らが車に乗せますから、とにかく急いで病院へ」

「そ、そうですね」

 白い運転手は急いで自分の持ち場、運転席へと戻り、後部座席のドアを開いた。

 僕と境生は迅速に、しかし慎重に栄都を後部座席に乗せた。身体を全て座席に押し込んだところで、栄都がほんの僅かに目を開いた。

 すぐに気付いた境生が身を乗り出し、栄都の顔を凝視した。

「良し、意識は戻ったな。大丈夫か?」

「最悪だ。どうやら借りを作ってしまったようだな」

 瞼を持ち上げる事さえ困難そうな栄都だったが、声は意外と確りしていた。

「けっ、お前の存在自体が借りまくりだっつーの」

「フン、ならばこの勝負に君が勝てば、僕の名をくれてやろう」

「いきなりなんだ、話が繋がらないぞ。名? だーれがそんなもんいるか。良いからさっさと病院行って来い」

 そう言って境生は荒々しくドアを閉め、白い運転手にお願いしますと言い、頭を下げた。

 運転手はありがとうございますとだけ言ってお辞儀も会釈もしなかったが、どうやらそれは時間が勿体無いからで、早々と車を動かし去っていった。去っていく車を見つめる境生は、どこか寂しげだった。


「栄都さん、大丈夫ですかね?」

 栄都を乗せた車が去ったあと暫く境生の指示を待ってみたが、何のアクションも無かったので僕から聞いてみる事にした。

「多分な……」

「先生が言っていた栄都さんがちょっと変ってのは『解決』の事だったんですね」

「ああ」

 反応が鈍い。

「でも『解く』と『解決』ってそんなに違いますかね?」

「あいつが過程専門でおれが結果専門」

「ああ、なるほど」

 境生は未だにぼんやりとしていた。きっとショックだったのだろう。僕はこの二人にどこか深い繋がりがあるように感じていた。

 表と裏、だが併せて一つになるような感覚だ。上手く嵌っている。嵌りすぎている。この先も僕の隙間は見つからないだろう。

「じゃあ、結果の方を出しに行かないと」

「そう……だな、良し」

 僕はようやく立ち直った境生に、栄都が青葉邸で行った事の解説と青葉の状態を簡単に説明し、再び青葉宅に戻った。

 この扉を開けるのは今度こそこれが最後だ。そう思い、重厚かつ静かなドアを開け、そして再び立ち眩んだ。


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