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胎動
青葉邸から境生を見送った道明は、ひとり安友家の玄関へと静かに向っていた。歩きながら別れ際に言った境生の言葉を思い出していた。
『分かってる、前にもあったから』そう言っていた境生は、確かに悲しそうだった。
もしかしたら、前にも誰か境生の元へ送り込まれたのだろうか。果たしてそれは試験なのか、監視なのか。
道明にとって境生という存在は危険な存在でもあった。それは彼が妖怪退治という職業についているからである。ただし危機感を覚えるほどではない。道明にとって境生のキャラクターは脅威ではなく、むしろ好感をもって受け入れる事の出来る存在となっていた。
道明の父は、何も説明せずに、ただ境生の元へ行くよう言っただけだった。道明にとってこれは単なる試験であるはずだった。己の力を認めてもらうための試験、あるいは試練。そのために境生という人間を利用しているに過ぎない。それでも小さな罪悪感が道明の心に澱となって残っていた。
しょうがない
これは僕の物語なのだから……
目前にそびえる最後の関門が今、開く――